2月22日公開!北欧枠で紹介しなくていい映画『ギルティ』の北欧らしさを考える

カンヌ国際映画祭ではスウェーデンのリューベン・オストルンドがパルム・ドールを獲得し、ネットフリックスではデンマークが誇る至宝、マッツ・ミケルセンが大暴れ。超話題のドラマシリーズ『ゲーム・オブ・スローンズ』でもデンマーク出身のニコライ・コスター・ワルドーをはじめ、北欧勢が存在感を見せています。北欧出身の監督や俳優が国境を超えて大活躍し、もはや「北欧」とわざわざ謳う必要ありませんね? と思う作品も多い今日この頃。デンマーク発のサスペンス映画『ギルティ』もそんな一本かもしれません。

サンダンスをはじめ世界の映画祭で観客賞を獲得している本作。とくに話題になっているのがワンシチュエーションで撮られた作品であること。舞台となるデンマーク警察の緊急通報指令室は日本で言うところの110番でつながる先(ちなみにデンマークでは112番でつながるそう)。交通事故の通報をはじめ、ひったくりにあったとの訴えから酔っぱらいの迷惑電話まで、次から次へと「なんとかしてくれ」の声が響く中で、誘拐されたと思われる女性本人からの声が入る……。88分の全編、画面に写るのはほぼ一人の俳優、主役の警察官アスガー(ベン・アフレック似。とくに顎。)のみ。物語を動かすのは声だけ。

会話の中だけで「犯人はどこにいる?」「何が目的なんだ?」と物語は進んでいき、事件の謎解きとともに、”しあわせの国”の裏側にある深刻な問題があぶり出されていき、88分間、観客は画面に釘付けになってしまうのです。アメリカのレビューサイトでは観客満足率100%を達成したという本作、映画関係者が声を揃えて「やられた!」「この手があったか!」と叫び、地団駄踏んだのも無理はない。観客を魅了するのは派手な俳優陣でも大金をかけた豪華セットでもありません、それはアイデアですよ、ふふん。とさらりと言ってのけるような、そんな痛快な作品なのだから。

本作を観ていて、北欧ミステリブームのきっかけとなった『刑事マルティン・ベック』シリーズを思い出しました。60年代に発表されて以来、大ヒットシリーズとなったスウェーデンの警察小説です。小説シリーズは10冊に及び、繰り返し映画化やテレビドラマ化もされているのですが、一貫して描かれるテーマは「警察官はつらいよ」。事件が解決しなければなじられ、国家の犬と蔑まれ、不始末があれば、そらみたことかと徹底的に批判され、上層部からは無理難題を押し付けられ……現場には、シャーロック・ホームズ的に事件を鮮やかに解決してくれるヒーローはいない。睡眠時間を削って地道に聞き込みと調査をするしか事件の手がかりは見つからない。ヒーローが現れるどころか世間体ばかり気にする上層部の失策、いたずらに煽ってくるマスコミと、事態をさらに悪化させることばかりで現場はいつも四面楚歌。そんな胃が痛くなるような警察官の日常を、リアルにときに小気味よく綴るのがマルティン・ベックシリーズの本懐です。

警察官の悲哀は家族との関係からもにじみ出ていて、主人公ベックの娘は幼い頃は「お父さんが刑事である」ことを自慢に思っていたのに、大人になるにつれそれを恥ずかしく思うようになります。まるで警察はもう正義の味方なんかじゃない、と世間が冷ややかな眼差しを向けるのを代弁しているかのように。ええ、本作でもそういう切ない描写がありますね。

北欧ミステリの醍醐味は、犯人が捕まっても、問題が解決しても、すっきり爽やかに物語が終わらないところです。本作もまさにそうで、犯人がわかってもまだ続く闇、いやむしろ犯人がわかってからの展開こそがすさまじい。犯人探しで現実は終わらない、喉の奥に苦いものが残るような、そんな後味を残すストーリーは、思えばマルティン・ベックをはじめとする北欧ミステリの本流に位置していると言うことができるでしょう。

それにしてもこの物語、ハリウッドが好きそうだな、リメイクしそうだな〜と思っていたら、ジェイク・ギレンホールでリメイクが決まったとの報が! なーんだベン・アフレックじゃないのか……それはさておき、ハリウッドでどう料理されるんでしょうね〜。北欧の映画がハリウッドでリメイクされる際に、オリジナル版が持っている何か大事な部分があっさりと削ぎ落とされてしまうことが往々にしてあるんですが、本作はどうでしょうね。クロエ・モレッツ主演でリメイクされた『ぼくのエリ』しかり、ハリウッドで超話題作となった『ドラゴン・タトゥーの女』しかり。オリジナルが持っていたザラリとした質感や後味が、ツルッと爽やか!仕上がりになっちゃったりする。そのザラリとした部分にこそ作品の価値観や信じるものがにじみ出ていたのに……ということもある。主人公のアスガーが「これは、まじヤバイ案件だ……」と事件に前のめりにならざるをえなくなった時に上司から言われイラッとする、とても北欧的な勧告など果たしてアメリカでは通じるのだろうかとも思いますが、せっかくならこれぞ北欧!な苦味もこみで調理されるといいなと思うのです。

2月22日(金)〜全国公開 『THE GUILTY ギルティ』公式サイト