5/15公開。しあわせだからこそ描ける悲劇『真夜中のゆりかご』

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ひと言でいうと悲しい映画なのです。そして主人公はいくらなんでも無謀すぎるのです。その後の悲劇が容易に想像できる主人公の行動には誰しも「ちょっと待って!」と言いたくなる。でもそれは私達が観客だから、そんな風に冷静でいられるのかもしれない。主人公の決断を「そんなの全然解決になってない!」と突っ込めるのは、こちら側にいるからなのかもしれません。

北欧ぷちとりっぷでご一緒しているデンマーク人のイェンスさんと、この映画について話す機会がありました。「なんであんなにdepressing(気が滅入る)なの」と思わずこぼすと、イェンスさんは「デンマーク人にとって映画とはそういうものなんだよ」と。虐待や貧困、差別など社会問題を扱う映画には助成金が出るというメリットもさることながら、映画こそが社会が抱える問題、普段私たちが目をそらしている、でも本来は直面しなければいけない問題を扱うものであるべきなのだと。

この映画の監督スサンネ・ビアをはじめ、思えばデンマークを代表するラース・フォン・トリアーもトーマス・ウィンターベアも人間の闇の部分を描き、突きつける。そういえばデンマークは今でこそ社会福祉が充実し、誰もが自分らしく暮らせるノーマリゼーションが浸透した国として知られていますが、そのきっかけには第二次大戦下で障害児たちへの非人道的な行いがあり、その反省でノーマリゼーションが一気に進んだと読んだことがあります。スウェーデンの住宅政策や高齢者対策などもそうですが問題を直視し、一気に舵をきっていく。北欧では社会システムをがらりと変えてしまう英断がたびたび行われてきています。

この映画は万人向けではありません。でももしかしたらこの国は悲劇を直視するからこそ、しあわせの国に近づいていっているのかもしれない。「世界で一番しあわせな国」だからこそ、こんなdepressingな現実をとくに仕掛けもなくストレートに描けたのかもしれない。もしかしたらデンマークは社会的に安定しているからこそ映画を観る側も、そんなdepressingな現実に目を向ける余裕があるのかもしれない。そんなことを思うのです。

次々に悲しみが重なっていくストーリーとは裏腹に主人公夫婦が暮らす家の夢のように美しいこと。悲しい物語を直視できない私はついついインテリアチェックに走ってしまいました。海の近くに建つ家は一面ガラス戸で海をのぞみ、家の中にはクリスマスの星形イルミネーションや電飾があちこちに飾られ、一般人の住宅とは思えないモデルルームのような佇まい。子育て中とは思えないすっきりとムダのないリビングにベッドルーム……。「シンプルシモン」を観た時も、裕福とは思えない主人公たちの暮らす家があまりにも可愛くて北欧インテリア偏差値の高さには舌を巻いたものですが(スウェーデンの友人に聞いたらあのくらいの部屋は普通と言っていた)、今回の映画もそうなのでしょう。あのスタイリッシュすぎる部屋は、妻アナの心の闇をどこか象徴していたのかもしれない……と最初こそ思いましたが、単純にあのくらいのインテリアは「デンマークでは普通」と言われる気もします。
同僚が暮らすアパートがまたいいんですよ。飲みかけの酒瓶があちこちに散乱し、家族に逃げられた悲しい中年男の部屋、のはずなんですが照明は素敵だし椅子も可愛いし、間取りは住みやすそうだし。案の定、片付けたらすごくいい感じなんです、アル中の部屋なのに!

と、お部屋チェックばかりしておりますが印象に残ったのは2人の女性。妻のアナ役のマリア・ボネヴィーはスウェーデン出身なんですね。美人で仕事ができそうで、素敵な部屋で暮らす姿はモデルのようだけれど、彼女が画面に映るとなんともいえずピリピリとしたムードが漂い、不安になる。
一方、赤ちゃんをとられたサネは貧しく、夫に暴力をふるわれ、子供の世話もろくにできない社会の最低辺にいるような別の意味で痛々しい女性。それが自分の赤ちゃんの身に起こった異変に気づき、立ち上がっていく。眼力がすごいと思ったらデンマークのトップモデルさんなんですね。どことなくミラ・ジョヴォヴィッチやアンジェリーナ・ジョリーを思わせる爬虫類系美女のリッケ・メイ・アンデルセン。別の映画でまた彼女を観てみたいです。

『真夜中のゆりかご』オフィシャルサイト