幸福度ランキング1位のフィンランドが考える「しあわせの定義とは?」

今年20周年を迎えるフィンランドセンターの主催で、美術や文学、建築、科学など各分野の専門家が「幸福の定義について考える」セミナーが開催されました。登壇されたのはフィンランド国立アテネウム美術館館長のスサンナ・ペッテルッソンさん、ヘルシンキ大学フィンランド語学科教授ピルヨ・ヒーデンマーさん、ヘルシンキアート大学副学長のパウラ・トゥオヴィネンさん、建築家のマッティ・ラウティオラさん、オーボアカデミーのバイオサイエンス学部教授ニクラス・サンダーさん、そして今年から就任されたフィンランドセンター所長のアンナーマリア・ウィルヤネンさん。

最新の幸福度ランキングで1位に選ばれたフィンランド。ランキング1位というと、ついそれだけで羨んでしまいそうですが、そもそも「しあわせの定義」とは?今回のセミナーではそうした根幹となる考え方について、それぞれの分野の専門家がスピーチしました。印象に残ったお話についていくつかご紹介していきたいと思います。

ひとつはヘルシンキ大学の教授ピルヨさんによる「本としあわせの関係」についてのお話でした。

国際的な学力調査PISAによると、フィンランドの15歳は世界でいちばん読書をするという結果が出ています。昨今、日本でもたびたびメディアで話題になっている「ベイビーボックス」(フィンランドで赤ちゃんが生まれると各家庭に届けられる箱。冒頭の写真が中身で、産着やおむつなど子育てに必要なものがつめられています)の中にも本が入っています。ベイビーボックス用の本は「色と形が楽しめるもの」「親子で一緒に楽しめるもの」を基準に選ばれているそう。選書については、10年毎に見直されているそうです。

「本は、学ぶだけでなくリラックスするためのものでもある」。ピルヨさんのスピーチにはハッとさせられる言葉がたくさんありました。そして本には「共感する力を育てる」「他者への理解を深める」「歴史を知ることを助ける」ことができる。いや〜ピルヨさんのお話、ものすごくわかりやすいんですよ。本がもつ力、本の可能性を改めてわかりやすく意識させてくれて、本を読む人、書く人、つくる人、売る人、みんな勇気をもらうのではと思いました。あーこういう先生の元で学びたい。そして私もそういう本を書いていきたいな、と改めて思いましたね。

すごいなと思ったのは、フィンランドでは「患者の気持ちをより理解するため」に医学部でも文学を取り入れているのだとか。日本でもそういう取り組みってあるんでしょうか。医師と患者間のコミュニケーションは難しい問題ですが、ひとつの具体的な解決法ですよね。

そしてフィンランドでは今、ブックフェアが盛んだそう。著者を招いてパネルディスカッションをしたり、著者と話せる交流会なども合わせて行われているとのこと。書店でもそうしたイベントが活発に行われ、また古本市も通常の書店では見つけられない本に出合える場所として盛り上がっているようです。現代において「読書とはソーシャルなもの」であり、一人で読むだけでなく一緒に読む試みや、意見交換できるブログやサイトなども盛り上がっているとか。

また読書が大切な理由に「集中力を養う」ことも挙げられていました。とくに現在はSNSの発達で、短い文章しか読めなくなっている人が増えている、と。デジタルでも紙でもそれはどちらでも良いから、とにかく長い文章を読むことが大切なのだとお話されていました。これもまた刺さる言葉です…

最後に「本をよむとき、人は孤独にはならない」という言葉がありました。本を読むことで自分と対話でき、本の中の登場人物と友だちになれ、そして本と対話することができる。何より本はピースフルな時間を与え、健やかな状態にしてくれる。というお話で締めくくられました。難しい話は一切なく、本が持つ力を改めて再認識させてくれたピルヨさんのスピーチ、素晴らしかったです。

建築家のマッティさんのお話「しあわせと建築に関係はあるか?」にも発見がありました。マッティさんは昨年2017年にフィンランドが独立100周年を迎えた際に記念に作られた雑誌『The Building of Finland』の制作に関わり、ヨーロッパでも随一の貧しい国がどのように発展してきたか海外の記事なども含め、膨大な資料と向き合われたそうです。

「箱ではなく中身が大切とよく言われるけれど、そうだろうか?そういう考えの人を説得するにはどうしたらいいか、私たちは常に考えています」と話すマッティさん。橋、図書館、スポーツ施設そして人々が暮らすアパートなどの建築は、今のフィンランドを作り上げるのにとても重要な要素であったこと。いまフィンランドは幸福度の高い国として選ばれるようになったけれど、しあわせな国には建築が不可欠なのだと。そして環境的に、社会的に持続可能な建築とはなんだろうか?それを考えることが、建築家の仕事だと話されていました。

「しあわせは個人的なもの。それを感じるための環境が必要なんです」という言葉に、これまで見てきたフィンランドの暮らしやすい住居や使いやすい公共施設を思い出しました。フィンランドの建築や住まいを実際に見た体験を思い出し、マッティさんが述べたような考え方が個人レベルでなく国家レベルで共有されてきたことを改めて感じました。最後にご自分の歌声も披露されていたおちゃめなマッティさん、「Love & Building!」と名キャッチでお話を締めくくられました。

ヘルシンキアート大学のパウラさんからは、現在フィンランドではQOLをあげるため政治家にアートの必要性を訴えるリサーチ「Art Equal Research」が進められていること、人がアートとうまく関わるにはどうしたらいいか、社会問題、たとえば移民問題や労働環境をよくするためにアートは何ができるかについて話がありました。驚いたのは実際に行われたケースとして紹介された、社内の労働環境をよくするために役者を雇ったという試み。まず社内の人間関係について、上司と部下の関係や同僚同士の関係など役者やスタッフがリサーチをする。そしてその情報をもとに芝居を組み立てて、社員みんなの前で演じて見せて問題を認識させるのだそう。「もちろん個人的な攻撃にならないよう、その辺りは配慮していますよ」と説明されていましたが、一体どんな風に演じるんでしょう!そんな試みを取り入れる時点で問題意識が高い会社なんだろうなあと思いますが、さすがデザインも建築もすべては人間の問題を解決するためにある国、フィンランド。アートもそのひとつの役割をしっかりと果たしているようです。

フィンランドセンターは研究、教育、文化の面で日本とフィンランドの相互協力ができるようサポートする機関。今回紹介されたフィンランドが考える「しあわせの定義」セミナーではフィンランドや北欧で取材をしている自分にとって、より深く彼の国を理解し伝えていく上でためになるお話が聞けました。今回の内容は、本やイベントを通して繰り返し伝えていきたいと思っています。フィンランドセンターでは講演やワークショップなど随時開催しているので、サイトもぜひチェックしてみてくださいね。 →フィンランドセンターのサイト