2019年の北欧映画ベスト5

北欧発の映画たち、今年もいろいろ観ました!強くてカッコいい女性から、イカレポンチな男たちの物語まで、2019年に観た北欧映画ベスト5を選んでみました。

①『たちあがる女』 アイスランド
②『イート・スリープ・ダイ』 スウェーデン
③『トム・オブ・フィンランド』 フィンランド
④『アダムズ・アップル』 デンマーク
⑤『リンドグレーン』 スウェーデン

『たちあがる女』 アイスランド

度肝を抜く映像美と予測のつかないストーリーテリングで魅せるベネディクト・エルリングソン監督の最新作。アイスランドというと絶景!オーロラ!大自然!の爽やか〜なイメージがありますが、じつはこの国の経済を支えているのはアルミニウムの精錬工場による収益。地熱&水力発電で”エコ”な電力が作れることから国が工場建設を誘致し、新たな発電所を作るために環境が破壊されていく……という、この国ならでは環境問題を抱えているのです。主人公の環境活動家、ハットラが立ち向かうのはまさにそのアルミニウム工場で、彼女の姿は今年もっとも注目された女性の一人であろうグレタ・トゥーンベリの姿ともどこか重なります。信念のもとに手段も厭わないハットラの姿はどこまでも頼もしいのですが、一方で国のネガキャンにより、彼女は「豊かな暮らし」を奪う敵とされてしまう……。先日発表された男女平等ランキングでアイスランドはまたも1位、これで連続11年首位!と、ぶっちぎりの強さを見せていますが、それもハットラのように戦う女性たちがいたからこそ成し得た栄光なのだと監督は語っています。環境問題についても男女平等についても、私達はもっともっと意識して行動していくべきだし、そうして前に進もうとする者、たちあがろうとする者の背中を強く押してくれる、そんな作品です。ジョディ・フォスターがリメイク権を買ったというのも納得。背後に見えるレイキャビクの可愛い町並みや、ハットラが守ろうとするアイスランドならではの大自然のすごさを改めて体感できるのも満喫できるのもいい!

『イート・スリープ・ダイ』 スウェーデン

今年のノーザンライツフェスティバルでもっとも胸をえぐられたのがこの作品。主人公はスウェーデンに暮らす移民2世のラーシャ。町の不況により突然、職を失った20歳の女性ラーシャの生活からは「ワーク」が抜け落ち、「イート・スリープ・ダイ」だけの暮らしになってしまう。失業後の精神ケアや再就職の斡旋など国や自治体からのサポートもあるのだけれど、彼らが掲げる「夢や生きがい」という言葉はラーシャには届かない。まだ若いし働く意欲もあるのに、それでも社会とつながれない、未来が見えない。そんなラーシャの問題は遠い異国の出来事ではないし、世代間、男女間、先進国と途上国の間の断絶にも置き換えて考えることができます。監督のガブリエル・ピッシュレルは自身も移民3世で、移民としてこの国に生きる視点を持ち、さらにそれをユーモアとともに描ききることができるのが最大の魅力。同じくノーザンで公開された同監督の作品『アマチュアズ』もそうですが、ピッシュレル監督の作品は疾走感があって(音楽がいい!)、ユーモアがあって、エンターテイメント作品としても楽しめるのがいい。そしてラーシャのような人々と社会とのすれ違いを描ける人物が移民であるということが本作に圧倒的な希望をもたらしている、と私は思うのです。

 

『トム・オブ・フィンランド』 フィンランド

昨年のノーザンで観た作品なのですが、祝!一般公開ということで今年のランキングに入れました。フィンランドが世界に誇るゲイアーティスト、トム・オブ・フィンランドの人生を通して見る同国の暗く抑圧的な時代と人々の偏見。今でこそLGBT先進国であり、しあわせの国や暮らしやすい国として知られるフィンランドが、じつは戦後も壮絶なゲイ差別をしていたという事実。ムーミンやマリメッコのイメージとは程遠い、暗く閉塞的な空気にのみこまれそうになる一方で、わずか数十年で国はここまで変われるのだという現実が強いメッセージとなって胸に刺さります。一度見たら忘れられない強烈にして繊細なトムの作品が、どうやって描かれているかを追えるのも面白い。クイーンのフレディ・マーキュリーにも大きな影響を与えたといわれるトム。彼の闘いが、『ボヘミアン・ラプソディ』へとつながっていったのだと思うと、また胸アツです。

『アダムズ・アップル』 デンマーク

こちらも以前ノーザンで上映され、14年もの時を経て一般公開となった作品。思えば今の時代にこそ改めて受け止めたいメッセージがてんこ盛りの本作。本作のテーマ「他者をどこまで受け入れることができるか?」との根源的な問いは「そもそも神って正しいのか?」と、キリスト教関係者が青ざめそうな問いかけにまで繋がっていく。そんな重そうに見えるテーマを強烈なブラックユーモアでくるみ、北欧の至宝マッツ・ミケルセンをトッピングして、しれっと届けてくるアナス・トマス・イェンセン監督。短パンに聖職者コスプレで魅せるイカレポンチなマッツと、悪そうに見えてもやっぱりいい人なウルリッヒ・トムセンの「もしかしてラブ?」としか思えない掛け合いといい、これまでのイェンセン監督作品に漂っていたミソジニー臭を見事にぶち壊したパプリカ・スティーンの存在感といい、役者陣の名演怪演がまた素晴らしい。まだまだ全国各所で上映中ですので、ぜひ!

『リンドグレーン』 スウェーデン

強くて格好いい女性の映画をもうひとつ。『長くつ下のピッピ』やロッタちゃんシリーズで知られるアストリッド・リンドグレーンの若き日々を描いた本作。児童文学の巨匠が不倫の末の出産、シングルマザーになるという、じつは破天荒な人生を歩んでいたことに驚くとともに、女性ゆえに不利益をこうむる社会の仕組みってリンドグレーンの時代からもうすぐ100年経つというのに、日本じゃまだそれほど変わっていないのでは……という事実に気付いて白目むきたくなります。痛々しい描写もある中で、リンドグレーンが才能を開花させていくシーンには感動。そしてリンドグレーンの強い意志とセンスを見事に伝えるファッションの変遷に感涙。ここ数年、フェミニズム運動を後押しする本や映画が数多く世に出ていますが、その流れにぜひ加えたい作品でもあります。こちらもまだまだ上映中!

次点 『AURORA』 フィンランド

ベスト5でまとめるつもりが、どうしても絞りきれず(笑。この作品も『イート・スリープ・ダイ』と同じく、現在の北欧諸国が向き合う移民・難民問題がテーマ。舞台はフィンランド、サンタクロースの町としても知られるロバニエミ。イランからやってきた難民の男性と、時折、自暴自棄になりつつも困っている彼に助けの手を差し伸べずにはいられない心優しきフィンランド女性オーロラの物語。オーロラちゃんの自暴自棄っぷりが可笑しくも妙にリアリティがあって、問題を抱えているのは果たして誰なのか?解決しなきゃいけない問題はどこだ?と考えさせられ、「難民=かわいそうな人」という単純な図式で収めていないのが面白い。カルヤランピーラッカのキテレツな歌を披露するお金持ちのおばあちゃん、誰よりもフィンランド人らしくあろうとする移民の黒人男性ユハなど脇役のキャラクターも光ってます。