7/15公開。アイスランド発、崖っぷちの道をゆく辛口の青春映画『ハートストーン』


馬々と人間たち』『ひつじ村の兄弟』『好きにならずにいられない』などコンスタントにヒットを飛ばすアイスランド映画界から、またまた良作が届きました。今回の主役は馬ではなく、年寄り兄弟でもなく、200キロのデブでもなく……なんと美少年です!
アイスランドと聞いて何が思い浮かびますか?幻想的な自然、ビヨークの国、イギリスを破ったサッカーチーム……。近年では男女平等が浸透した住みやすい国として誉れも高い彼の国。さて本作にはどんなアイスランドが登場するのでしょうか。
主人公のソールとクリスチャンは思春期を迎えつつあるティーンエイジャー。まだまだ幼さの残るソールはどこか中性的で、すでに青年のように見えるクリスチャンとは対照的ながら、2人は無二の親友です。舞台となるのは小さな漁村。そこには不幸の見本のような大人ばかりがいます。いつも酒の匂いをさせている大人、母に色目を使う大人、差別をする大人、暴力をふるう大人。子どもの頃に恐れていたような大人ばかりが本作には登場するのです。村には娯楽施設などなく、若者が集うのは村におそらく一軒しかないであろうカフェ(というかキオスクの延長みたいなもの)。何かしくじれば、このカフェであっという間に噂が広まってしまう。そう、この映画で描かれるアイスランドはけっして理想的な先進社会ではなく、男女平等なんて程遠い。都会から遠く離れた田舎町を覆っているのは圧倒的な閉塞感で、ここで感受性の豊かなティーンエイジャーたちがどうやって生き延びていくのか、物語のはじめからハラハラせずにはいられません。物語が進むにつれ、案の定さまざまな不穏なフラグが立てられていき、崖っぷちのような青春を歩く彼らはたびたび足をすべらせる。北欧映画の常というか、グズムンドソン監督は正直すぎるほどの描写力で痛々しい青春の日々をくっきりと浮かび上がらせていくのです。監督コメントによると、この作品は監督が実際に体験したことが元になっているそう。
それでもやっぱりこの映画には、人生のあの時期にしか体験できない輝きがつまっています。プールで友人と戯れて過ごす夏の日。親にみつからないように窓からこっそり出入りするスリル。好きな人が視界に入ってきた瞬間。その輝きは、寂れた村や絶望的な大人たちの存在も霞ませてしまう。さらに背景に広がる壮大な自然の美しいこと!日が沈まない白夜の中、馬に乗り、他には誰もいない渓谷でキャンプを楽しむ彼らのたくましさ。青春時代からすでに遥か遠くまで歩いてきてしまった身には、そんな彼らの姿がとにかくまぶしい。若いってすごい。グズムンドソン監督は青春時代の痛々しさだけでなく、その輝きを映像にするのがなんとも上手い。青春なんてそんなに甘くないし、しょっぱくて胸がヒリヒリするような日々だけれど、それでも前に突き進まずにいられない。そんな若き日の感覚を甘さも苦さも切なさもひっくるめて、たっぷりと思い出させ、味わわせてくれる。そしてうっかり足をすべらせそうになったいまこの時、手を差し伸べることが、いま手をつなぐことが、どれだけ大切か。若い時には当たり前だったあの感覚を、改めて思い出させてくれるのです。
『ハートストーン』のストーリーの軸となるのは少年たちですが、彼らをとりまく女性たちの姿にも思いを馳せてしまいます。小さなキッチンでいつも虚ろな目をして立っている母は古い時代の象徴のよう。その母と折り合いがつけられずつい感情的になってしまう姉ラケルはいつか自分も母のようになると感じて抗っているかのよう。印象的なのはもう一人の姉ハフディスで、絵を描くことに没頭する彼女はこの閉塞的な村にあって、唯一自分の世界を持つ自由な存在にも見える。彼女は身のまわりで起きていることに良くも悪くも無頓着でいられて、だからこそ少年たちの悲劇の原因を作ってしまうのだけれども……やはりどんな環境にあっても好きなものがあるって強いなあ、と思わされる存在なのです。また主人公ソールが恋する少女ベータの凛とした強さも魅力的。息が詰まるような状況で彼女の言葉や行動が風穴をあけていくのは小気味よく、ああこのまま素直に育ってね……なんて思ってしまう。ティーンエイジャーの少年たちにとって時に煩わしく、時に救いとなる女性たちの描き方もまた本作品の見どころのひとつなのです。
さて最後に北欧映画トリビア?です。本作で鍵となるカフェの店主……アイスランド映画好きならきっとわかる、あの人です。あまり大写しにはならないのですが、大きな体のあの人です!チェックしてみてくださいね。
7月15日の公開初日には恵比寿ガーデンシネマにて上映後に『もっと知りたい♡北欧トーク』が開催され登壇することになりました。本作をより楽しめるようなアイスランド情報を中心にお話する予定です。お時間のある方はぜひ上映後にトークも合わせてお楽しみくださいね!*トークイベントに参加される場合は、下記上映回の座席指定券が必要となります。
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《もっと知りたい♡北欧トーク》
■日時:7月15日(土) 2回目(13:30の回)上映終了後に実施 
■ゲスト:森百合子(コピーライター・北欧BOOK代表)
詳細はYEBISU GARDEN CINEMA公式サイトからどうぞ
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また公開に合わせて北欧雑貨が当たるツイッターキャンペーンや、北欧雑貨&北欧料理のお店で半券提示でお得なキャンペーンをやっているので、公式サイトを要チェックです!
『ハートストーン』公式サイト

1件の返信

  1. 2023年10月31日

    […] 『ハートストーン』のレビューはこちら→北欧映画館: アイスランド発、崖っぷちの道をゆく辛口の青春映画『ハー… […]