WikiGap エディタソン 2019 in 東京@スウェーデン大使館に参加してきました

9月29日(日)にスウェーデン大使館で開催されたWikiGapエディタソンに参加してきました。WikiGapエディタソンとは、ウィキペディア上の女性記事を増やそうという試み。ウィキペディアには女性についての記事、また女性が書いた記事が割合的に少ないのだそうです。記事の90%は男性によって作成され、男性に関する記事の数は女性に関する記事の4倍も存在するそう。

ウィキペディアの世界がじつは男性中心だった、ということについては、こちらの記事が詳しいので参考にどうぞ
ウィキペディアが、実は「男の世界」だって知っていましたか

スウェーデン外務省がそのギャップに気づき、ウィキメディア財団と各国のスウェーデン大使館と手を組んで始めたのがWikiGapエディタソンです。これまで世界60カ国で開催され、日本では今回が初めての開催となります。

私はスウェーデン大使館のツイートと、上記の記事を書かれている武蔵大学人文学部准教授で『お砂糖とスパイスと爆発的な何か』の著者である北村紗衣さんのツイートでその存在を知りました。ちょうどこの夏、北村さんの著書を読んでフェミニストとしての物の見方に興味が高まっていたのも参加理由のひとつでした。この本、ワタシの今年のベスト1に推したい面白さ、痛快さ。おすすめです!

当日は、9月に駐日スウェーデン大使として就任されたばかりのヘーグベリ大使からの挨拶でスタート。「誰が世界を定義するのか?」との言葉にはハッとさせられました。ちなみに百科事典におけるジェンダーギャップはそれほど大きくないのだとか。また日本版ウィキペディアにおける女性についての記事の割合は2019年4月時点で22.3%と、他国と比較すると高い方なのだそうですが、AV女優や声優などのあまり質が高いとはいえない記事が多いという指摘もありました。

ウィキペディアンの方からは、ウィキペディアの成り立ちや目的、編集する上でのルール、そしてウィキペディアとジェンダーギャップについての説明があり、WikiGapのアンバサダーとして参加されていた“世界最高齢のプログラマー”こと若宮正子さんの記事をその場でアップするデモンストレーションが行われました。最後に、国連で働く中満泉さんからのビデオメッセージも流れ、参加されたみなさんで記念撮影。当日配布された紫色のWikiGapTシャツを着ています。真ん中にいるのが大使と若宮さん。白いTシャツを着ているのがウィキペディアンのみなさんです。

さて編集作業のスタートです。私はスウェーデンの女性について書くことにしました。選んだのは北欧デザインを語る上で欠かせない人物、アストリッド・サンペ。サンペはスウェーデンのテキスタイルデザイナーなんですが、テキスタイルの世界でデザイナーが名前を残すことの重要性や、50年代の北欧デザインが花開く時代に建築や公共スペースにも使えるようなテキスタイルを作ることを提案し、テキスタイルの可能性を広げた重要人物。また、それまで主流だった真っ白いリネンや花柄刺繍などに代わって、鮮やかなプリントテキスタイルの世界を切り拓いた人でもあります。

近くでちょうどインゲヤード・ローマンの記事を翻訳編集している方がいたり、大使館の方もアグネータ・フロックの記事を作っていて、「彼女たちの記事もなかったのか!」とは、ちょっと驚きでもありました。ちなみに最初に書こうかなと思っていたスウェーデンの美空ひばり(とも言われる)モニカ・ゼタールンドの記事は、既に日本語版にもありました。スウェーデンの都はるみ、アリス・バブスはなかった。

サンペの記事はスウェーデン語版のウィキペディアには入っていたので、それを元に翻訳しながら、資料として持ってきていた書籍と照らし合わせながら作業をすることに。会場では翻訳チーム、イチから記事を書き起こすチーム、既存の記事を編集するチームと3グループに分かれて作業スタート。それぞれのグループを担当するウィキペディアンの方が随時、疑問点に答えてサポートしてくれます。

翻訳は元記事があるし、やりやすいのでは……と思っていたら、これが案外難しい。元記事にある情報はすべて反映しないといけないのかとか、元記事にあるリンクがスウェーデン語しかないけどどうするとか、細かい部分で疑問がぽろぽろ。さらに「え、下書きページって、どこ?」「いま、なんか変なところ押しちゃった?」とコンピュータあるあるで右往左往。4時間半ほど編集作業の時間がありましたが、あっという間に時は過ぎていく。「こりゃがんがん聞かないと終わらんわ!」と中盤から開き直って、とにかくウィキペディアンのみなさんに質問しまくって、なんとかアップしました。なんだか中学生の時に参加したキャンプ活動を思い出しました。とりあえず一人でヨットに乗って湖に出たはいいけど「うわー曲がれない、岸に帰れない、リーダー助けて!」みたいな。ウィキペディアンのみなさん、頼もしかった。おかげさまで、なんとか岸にたどり着けました。アストリッド・サンペで検索すると、出てくる!嬉しい(もうちょっと加筆したい)。

作業後には再びホールに集まって成果発表。その時点で26の記事がアップされ、その後、記事は37に増えたそうです。「気になる部分は家でまた修正・加筆していきましょう」との言葉にほっと安堵し、「更新状況はわかるようになっています。ほったらかしにしてると、それもわかります」との言葉にドキ。いやあ、こうした記事編集作業、そしてアップされた記事の修正、確認などを日常的にボランティアでしているウィキペディアンのみなさま、つくづくすごい。

そして成果発表の後は大使館の中庭へ移動して、お疲れさまのバーベキューパーティ。なんと六本木の北欧料理店リラ・ダーラナの遠藤シェフが鶏・豚・牛・ソーセージとお肉をがんがん焼いている。贅沢だわー。今回、昼食にはイケアのホットドッグ、他にもコーヒー、フルーツ、お菓子などのリフレッシュメントも用意されていて、スウェーデン大使館のサポートもすごいなあと感動しました(会場には活躍する女性たちの写真がたくさん飾られていて、それも良かった)。

パーティでは、参加者の方々にどんな動機で参加されたのか聞いてみたのですが「ジェンダー問題に興味がある」「北欧に興味がある」「大使館から案内があった」などなど。自分の好きなアーティストについて書いた人もいれば、英語版で既に記事があって面白そうな女性を選んだ、という方もいました。作業中も、時折コーヒーを飲みながらお互いの進捗状況を話したり、「時間内にまとめねば!」という緊張感を背負いつつも和気あいあいとして、いい雰囲気でしたね。最後に成果をシェアすることで、自分の作業がギャップを埋める一端をわずかでも担えたという満足感もあって、本当に良いイベントだったなと思います。

当日はメディアからの取材も入っていてネットで記事になっていましたが、驚いたのはWikiGapの活動に否定的なコメントが少なからず(っていうか、かなり多く)ついていたこと。「WikiGap」で記事やSNS検索するとわかりますが、「歴史上で偉業をなしえたのは男が多いのだから、男が多くて当たり前」というやつです。これか。こういうのがジェンダーギャップの根っこにあるんだなー、根深いなーとそこまでセットで勉強になりました。ヘーグベリ大使の言葉が改めて効いてきます。「世界を定義しているの誰か?」ですよ。歴史は勝者に塗り替えられる。世界は強者に定義される。そんなやり方だけでは、ダメだってことです。

日本でのWikiGapエディタソンは次回、10月14日(月・祝)に大阪で開催されるので、日本語でシェアされるべき女性の記事をあげたい!という方はぜひ参加してみてください。今後、駐日スウェーデン大使館は1年間にわたってWikiGapイベントを展開していきたいとのこと。ふと、北欧ぷちとりっぷとコラボして、みんなで記事を作っても面白そうだなーなんて思いました。先日のかるたといい、おみやげのプレゼンといい、ぷちとりの参加者のみなさん、力量ありますから!