7/17(金)公開。スウェーデンのこんまりさんが行く!『ブリット=マリーの幸せなひとりだち』

大ヒット作『幸せなひとりぼっち』の作者フレドリック・バックマン原作による『ブリット=マリーの幸せなひとりだち』。前作につづいて映画も本国で大ヒットした模様で、スウェーデンのアカデミー賞といわれるゴールデンビートル賞2020では主演女優賞と観客賞にノミネートされています。

さて本作の主人公は、結婚してからずっと専業主婦として暮らし、63歳にして”ひとりだち”せざるを得なくなったブリット=マリー。この設定にあれ?と思った方もいるのでは。北欧スウェーデンといえば女性は自立していて、女性もしっかり働いて税金を収めないと白い目で見られる国、というか税金が高すぎて共稼ぎでないとやっていけないのが普通なはず。

この国で専業主婦でいられるということは、おそらく夫のケントは高給取り。そんな夫のために家をピカピカに磨き、お手製の料理で帰りを待つブリット=マリー。でもピカピカに磨き込まれたイケアのショールームみたいな整った明るい部屋とは裏腹に、彼女を囲む状況は明るくはない。自分への興味を失っている夫。家事に明け暮れる日々。いざ家を飛び出してみたものの手に職はなし……(家政婦業でやっていけそうだけれど)さてブリット=マリーは自立できるのでしょうか。

私は本作を最初に見た時、スウェーデンのこんまりさんか!と思ったんですよね。家事に追われる生活とはいえ、そこに使命感を持っているところとか。絶対に義務を超える何かがあるな、と。キレイ好きには掃除好きと、整頓好きの2種類がいると思うんですが、物には居場所がある!部屋をすっきり片付けるためには、居場所に戻せばいいだけ!というこんまりメソッドよろしく、ブリット=マリーも物のしまい場所にこだわっているし(重曹にもこだわってますけど)。荒れ果てたユースセンターを手際よく片付けていく様なんて完全にこんまりしてたし、このこんまりっぷりが、後に物語にも効いてくるのが面白い。子ども達やまわりの人々、そして自分の居場所もどんどん見つけていっちゃうんだから。

冒頭でも書きましたが、スウェーデン女性というと自立していて、結婚していても子どもがいても、自分の好きなことを諦めることなく自分らしい暮らしを謳歌している……そんなイメージがあって、羨ましいと思う一方で到底手が届かないようにも思えていたのですが、ブリット=マリーを見ていると女性の生きづらさは世界共通のようにも思えてくる。

ちょっと話が飛びますが、昨年NHKの番組『人と暮らしと、台所』に出演した時にたくさん感想をいただきまして、その中に「結婚してから自分のことは後回しだった」「家事に追われて自分が何を好きか忘れていた」というニュアンスのコメントがとても多かったんです。ブリット=マリーが少女時代に好きだったキラキラした時間やモノを封じ込めてしまったのには理由があるのですが、彼女がまた再びやりたいことや夢を思い出し、自分の足で前に進んだように、本作を見て胸ときめく時間やモノを思い出したり、自分には選択肢があるのだ、と気付く人が増えたらいいなと思います。そしてブリット=マリーが情熱を注いできた家事や片付けの才能と、日々のルールがじつは彼女を救っていることに私は感動しました。だって家事ってちゃんとこなすには、めっちゃ才能や気遣いが必要じゃないですか!まさにブリット=マリーの口癖「一日ずつ、一日ずつ」積み重ねられてきた技術であり知恵なんですよ!そこをよくわかっているフレドリック・バックマンや監督の眼差しが素晴らしいなーと思いました。

ブリット=マリーを演じるのはスウェーデン出身のペルニラ・アウグスト。『ペレ』の名匠ビレ・アウグストの元妻で、『リンドグレーン』でアストリッドをみずみずしく演じたアルバ・アウグストちゃんの実母です!

ブリット=マリーを支えるスヴェン(手作りジャムが微笑ましい…)、どこか憎めない夫のケント、心優しきサッカー狂のサミ、ブリット=マリーと心を通わせるヴェガ、そして試合のキーパーソンとなるバンクと脇役がみんないい味を出しているのが原作者フレドリック・バックマンの世界らしくてとってもいい。この人の紡ぐ物語はリアルで温かい。原作もおすすめです!そして監督は『ボルグ⁄マッケンロー 氷の男と炎の男』 で美しすぎるボルグを支えるパートナーを魅力的に演じていたツヴァ・ノヴォトニー。天が二物を与えちゃった系の方ですね。ちなみにバンク役の女性はアンナ・オデルの『同窓会』に出てたんですねー(ぜんぜんキャラが違うよ〜!!)

さて本作の劇場パンフレットに解説を寄稿しています。「スウェーデンのインテリア、食、そしてサッカー(!)について書いてください」とお題をいただき、映画に登場するビンテージアイテムや食卓に並ぶ定番メニューなどについて書くのはもちろんとっても楽しかったのですが、「サッカーについて原稿を書ける日がくるとは……!」と喜びに震えながら書きました(にわかサッカーファンなんです)。原作にあるエピソードなども交えつつ、本作をより深く味わえるような内容になったかなと思います。鑑賞の折は、ぜひパンフレットも手にとっていただけたら嬉しいです♪ そしてもうひとつちらっとお知らせ。↑に書いたNHK『人と暮らしと、台所』が8月〜9月にアンコール放送が決まったそうです。8人8様の台所との付き合い方を紹介する番組です。私は自分が暮らす上でラクになれたスウェーデンの考え方や言葉について話しています。またこちらは改めて放送日などお知らせしますね。

ブリット=マリーの幸せなひとりだち