7月公開!北の土地の教えに震えるグリーンランド映画『北の果ての小さな村で』

グリーンランドが舞台の本作『北の果ての小さな村で』。無邪気な子どもの笑顔や真っ白な雪の中に建つカラフルな家の風景に、ほのぼの作品かと思いきや、自然は容赦なく人々は逞しく……こ、これはゴールデンカムイの世界ではないですか!(アザラシ食べてヒンナヒンナ!)

真っ白な雪景色の中にポツンポツンと浮かび上がる赤、青、黄のおもちゃのような家。「かわいいな〜」と、最初こそ呑気に見ていたのですが、ああそうか、この土地で、この自然環境で、白い壁なんかにしたら見えなくなる。帰ってこられなくなるのかもしれないなあと想像して、身震いする。

主人公アンダースは「都会のしがらみから逃げたい」感をぷんぷん漂わせながら、教師としてグリーンランドのあえて小さな村へと赴任してくるわけですが、都会っ子が現実逃避の場所に選ぶには厳しすぎましたね、この土地は。週末には森や山を歩き、夏はなにもない小屋と湖で過ごす自然大好き北欧人は、都会っ子でも案外と自然サバイバル能力が高いものですが、さすがに北極圏に位置するグリーンランド、それも人口80人の小さな小さな村となれば直面する自然の厳しさが違う!アンダース、甘い!それでもやっぱり人とのつながりが彼を生きかえらせていく。土地の人たちは”大国”デンマークからやってきた若者に厳しいけれど、でも見捨てない。そしてアンダースは身をもって、この土地の「教え」を学んでいくのです(スギモトのように)。

本作ではデンマークとグリーンランドの微妙な関係も描かれています(グリーンランドはもともとデンマークの植民地。現在はデンマーク領となっていますが、独立に向けて自治権を広げています)。スウェーデンと先住民族サーミの関係を描いた『サーミの血』を彷彿とさせ、ヒヤリとするシーンも。子どもには教育や選択肢が必要だと考えるアンダースと、この土地で生きのびていくために必要な技術を教えるべきと考える大人たち。どちらも子どものためを考えているのだけれど。大自然の前に右往左往するアンダースを見ていると、都会の人間の考える「選択肢」なんて、ひとりよがりでは?とも思えてしまう。先進国側からの一方的な物の見方、大自然に生きる人々の逞しさ、そしてそうしたものに安易にロマンや憧れを感じてしまう都会っ子の甘さを、アンダースの目を通して私達は体感していきます。

本作のもうひとつの見どころが、想像をはるかに超えてくる自然の姿と、そこに生きる動物たちの逞しさと美しさ!「天気、荒れるんだろうなあ…ほーら、言わんこっちゃない」とまでは想像がつくものの、あの吹雪の荒れ狂い方!「う、うわあ……こんなことになるんだ……」と呆然とする中、猛然とそりを引いて走る犬たち。白銀の世界に神のような存在感で現れるシロクマ様(そこもまたゴールデンカムイ的)……よく大自然や絶景を前にして「人間てちっぽけだ」と気づく流れがありますけれど、まさか映画でそんな感覚を味わわせてもらえるとは思わなかった。私達が見たくて見たくてしょうがない北の神秘オーロラも、この土地の人にとってはそういう存在なのだなあ……と気付かされるのも面白い。

予備知識を何も持たずに見たので、最後にまたサプライズが用意されていたんですが(なので驚きたい人はここから読んじゃ駄目です)………

これ全員、本人が演じてるんですね〜!ドキュメンタリーではなく、現実の設定に着目した監督が、フィクションとして作品に仕立て上げたというわけです(ドキュ・フィクションとかモキュメンタリーとか呼ばれるらしい。ドキュモキュ!)そうか、あの人は実際にああやってアンダースのことを「困ったやつだなー」と思いながらサポートしてくれたんだな……(アシリパさんみたいに)とか、各々のシーンを思い返すとまた感慨深い。そこで、生きていくこと。覚悟をして、決心をして、それを受け止め、支えあっていく人々の姿にはエネルギーをもらわずにはいられない。しかもそれが本当の話だって知っちゃったら、もう!アンダースがあの土地でいまも暮らしていると思うと、胸アツです……。
7月〜東京ほか北海道や愛知、大阪で公開予定。『北の果ての小さな村で』公式サイト