2/8(土)スタート。トーキョーノーザンライツフェスティバル2020、今年の気になる作品はこれ!

さて今年もやってきます!東京・渋谷で北欧映画を楽しめる一週間、トーキョーノーザンライツフェスティバル(TNLF)。10周年となる今回は例年にも増してスタッフのみなさんの気合と意気込みを感じるラインナップ。どの作品も魅力的ですが、ワタシ的にとくに気になる作品5本をピックアップしてみました。

①『サイコビッチ』 ノルウェー

北欧映画というと重い、暗い、気が沈むと思い込んでいる方がいらっしゃいます(『ダンサー・イン・ザ・ダーク』症候群ともいう)。そしてそれを期待してる方も少なくないとは思うのですが、TNLFには毎年必ず、爽やかハッピー枠がありまして、これが質の高い作品揃いなんです。いま公開中の『オリマキの人生で最も幸せな日』なんかもそうですね。なのでTNLFの爽やかハッピー枠は抑えておくべし!がマイルールなんですが、今回の(たぶん)爽やか代表がノルウェーの『サイコビッチ』です。昔、TNLFで上映された『ビッチハグ』という作品も最高に爽やかでほろ苦い良質の青春映画だったのですが、北欧のビッチ作品に(たぶん)ハズレなし!ノルウェーにもスクールカーストやプロム的イベントがあるんだ!?と本作で描かれるノルウェーの若者の日常もとても気になります。そしてラブコメの風体でさらりと社会問題を織り込んでいたり、たまにズドンと突き落としてきたりするのが北欧式青春映画。さて本作はどうでしょうか。

②『ザ・コミューン』 デンマーク

監督がトマス・ヴィンターベア、舞台は70年代のコペンハーゲン、そしてタイトルがコミューン。もうそれだけでクラクラするほどそそられる作品です。70年代というのは北欧の社会が大きく変化する時代であり、「しあわせの国」としての基盤が固められていった時代。逆にいえば「しあわせの国」以前の北欧が見られる、かもしれない。北欧社会のあり方、考え方に興味のある方はこの辺りの時代(60〜70年代作品)は観ておくといいのではないかと勝手に思ってるんですが、本作はまさにどストライクじゃないかと私のセンサーが働いている。『セレブレーション』や『偽りなき者』でも人間の内面を容赦なく描いてきたヴィンターベア監督はTNLFでも繰り返し取り上げられてきた、北欧を代表する監督のひとりですよね。『アダムズ・アップル』や『真夜中のゆりかご』でいい味を出していた名優ウルリッヒ・トムセン、『リンドグレーン』での名演も記憶に新しいトリーネ・ディアホルムが出てるのも楽しみ!多様性を認める社会と、自分に正直であることは両立するのか?現代のデンマークにも通じる問いが興味深い作品です。

③『ホワイト、ホワイト・デイ』 アイスランド

私の生涯ナンバーワントラウマ映画はTNLFで観たアイスランド作品なのですが、そのせいかアイスランド発の暗そうな映画があると妙に胸がバクバクます。昨年のTNLFで観客を奈落の底に突き落としたというフリーヌル監督の新作は、予告からして不穏。「楽しい話と、怖い話と、どっちがいいかい?」……こ、怖い方ーーー!主演はアイスランドの大ベテラン、イングヴァール・シグルドソンではないですか。『湿地』や『馬馬と人間たち』そしてトラウマ映画『スパロウズ』と、日本で公開されてきた数々のアイス作品(の暗いやつ)に出ている俳優で、ダークアイスランドの顔!!(でもハリポタシリーズにも出演してたりする)。もうひとつ、アイスランド映画の面白いところはですね、ふとしたシーンに映るこの国の自然の姿が驚異的ということです。例えば家への帰り道、車を走らせる道の周囲が草いっぽん生えていない火の鳥望郷篇みたいな背景だったりする。そして自然だとか運命だとか自分にはどうしようもない何かを前にした時の、あの国の人々の諦念とも言うべき情感の表し方、そしてそれを捉える映像の見事さよ。本作でもそこら辺をビシビシと感じられるのではないでしょうか!

④『ショー・ミー・ラヴ』 スウェーデン

これまでに見てきた北欧映画の中でも、ベスト10に入れたいほど好きな作品がスウェーデンで2000年に製作された『エヴァとステファンとすてきな家族』(これも70年代のコミューンを舞台にした作品です)。この作品の監督であるルーカス・ムーディソンの長編デビュー作品にして、記念すべき第1回TNLFで上映された作品がこちら『ショー・ミー・ラヴ』で、本国では『タイタニック』を超える大ヒットとなったとか。北欧映画や監督、俳優に興味を深めるにつれ、「そういえばTNLFでやってたよねー!観とけば良かったーー!」と地団駄踏む作品がぽろぽろと出てくるのですが、長らくその筆頭だった本作。今度こそ観るぞーー!原題は『Fucking Åmål』で、オーモルというスウェーデンの田舎町が舞台。こんなとこでやってらんねーという若者の叫びが聞こえてきそうなタイトルですが、それにしてもビッ●とかファッ●とか英語のイケナイ言葉が好きねぇ……。

⑤『ディスコ』 ノルウェー

昨年の東京国際映画祭で公開され話題になっていた本作。ノルウェーにおける新興宗教の実態を描く作品です。北欧の映画って、宗教を描く時のタブーが少ないのだろうかと思う。ラース・フォン・トリアー作品然り、強者揃いのTNLFファンの間でも「ヤバイ……」と噂された問題作『アダムズ・アップル』(現在、各地を巡回上映中ですよー)なんかもそうですよね。神の存在とか倫理観を根本から疑ってしまうような切り込み方をズバーっとしてしまう。宗教的(キリスト教的)な抑圧を案外と受けているハリウッド映画なんかと比較すると、北欧監督達のフットワークの軽さって独特だなあと思います。新興宗教という現代の闇が「しあわせの国」なはずの北欧にも広がっているのが興味深いですし、本作ではどれだけズバッと切り込んでくれるのか、注目しています。

今回のTNLFはノルウェーとデンマーク作品が充実している印象です。とくにノルウェーはここ1〜2年の新しい作品が揃っているのが楽しみ。しかしタイトルを並べてみると『サイコビッチ』『ディスコ』『HARAJUKU』と、まったく北欧を感じさせないのがすごい。


『HARAJUKU』は以前、機内で偶然観ていまして、不思議な後味の作品でした。日本のアニメやファッションに憧れ、その聖地ともいえる原宿(とか秋葉原)に憧れをもつ北欧の若者は少なくないようですが、本作もそんなノルウェー女子が主人公。しかし彼女を取り巻く現実は甘くない。母親は自殺、父親は新しい家族との絆を保とうとして、その結果、彼女をないがしろにせざるを得ない。個人の幸せを追求するとか、子どもを一人前に扱うというと聞こえはいいですが、裏を返せば子どもにシワ寄せが行くってことでもあり、そんな北欧のリアルをうまく描いた作品です。予告にも出てきますが父親(モテそう)がいい人そうなんだけど不甲斐ない。そのダメっぷりが妙にリアルでしたね。

他にも今年度のロバート賞(デンマークのアカデミー賞にあたる賞)で作品賞、監督賞、主演女優賞など主要部門を含む9部門受賞の快挙を成し遂げた『クィーン・オブ・ハーツ(原題)』、デンマークの巨匠ラース・フォン・トリアーやフィンランドの巨匠カウリスマキ兄弟の初期作品といったレアラインナップ、そしていま注目されるスウェーデンのアンナ・オデル監督特集と、北欧映画好きにはたまらない作品が揃っているので、時間(と体力)の許す限り、がっつり北欧映画に浸りましょうね!

劇場下にあるLOFT9をはじめ、期間中北欧メニューを出しているカフェも周辺にあるので、映画の合間に北欧の味を試すのも楽しいですよ。他にもユーロスペース近くにはデンマークのクラフトビールのバー、ミッケラーがあって入り浸りたいところですけど、飲みすぎると眠くなるので要注意なんだな……そしてアイスランド写真展やトーク&ライブなど関連イベントも開催されるので、北欧カルチャー好きは要チェックです。

各作品の紹介は公式ページから見られるので、ぜひ合わせてチェックしてみてください。チケットは上映3日前より窓口およびオンラインで購入できるので、狙っている作品のある方はお忘れなく!!(と自分にも言い聞かせています)

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トーキョーノーザンライツフェスティバル 2020
会期:2020年2月8日(土)~2月14日(金)
会場:ユーロスペース、アップリンク渋谷
チケット料金:一般 1,500円
※チケットは各上映3日前より窓口およびオンラインにて販売。