2019年読んでよかった!おすすめ北欧本ベスト5

今年読んでよかった北欧関連書籍のベスト5も選んでみました。

『1793』 ニクラス・ナット・オ・ダーグ著/ヘレンハルメ美穂 訳

中世が舞台で、陰惨な事件を追うミステリ物……と聞いてやや身構えていた本作ですが、読み始めたら止まらなかった!『ミレニアム』をはじめて読んだ時のような興奮が待っていました。謎解きの面白さと、事件の背景にある社会問題を知る面白さ。スウェーデンが「福祉の国」と言われるよりも遥か昔、暗黒の中世時代の想像を絶する抑圧的な社会と貧しさ。本を閉じてもなお臭ってきそうな街の腐臭と社会の腐敗ぶり……ええ、確かにかなーりエグい描写もありますが、それを上回るストーリーテリングの巧妙さにぐいぐいと引き込まれます。章ごとに語り手が変わる構成で、謎すぎる事件の手がかりが突然見えそうになったりと物語を見つめる視線が交錯するのがまたスリリング。ページをめくった途端に急転直下する展開に、何度となく本気で悲鳴をあげそうになりました……。主人公の二人、カルデルとヴィンゲのコンビも最高。シリーズ3部作になるとのことで、この二人のコンビをあと2作楽しめる、のか!?ああ次作が今から待ち遠しい。舞台となるストックホルム各所の名前に漢字表記をあてるなど、この時代感をあますことなく伝えてくれる訳者のヘレンハルメ美穂さんにも敬服。


北欧ミステリ界の”みぽりん”に、記念にサインしてもらいました。むふ

『良いスウェーデン、悪いスウェーデン』 ポール・ラパチオリ著/鈴木賢志 訳 

ポスト真実時代、なんて時代が来るとは思っていなかった昨今。私もこの本を読むまでは、なんだよポスト真実って、と思っておりました。歴代アメリカ大統領がスウェーデンをスケープゴートにしたがる理由とは?スウェーデンの悪い噂は本当か?本当でないならばなぜ、どのように噂が広まったのか?良いスウェーデンは幻想なのか……?著者はスウェーデン関連のニュースを配信するメディア、ザ・ローカルの創設者で、一つ一つのニュースや発言がどうやって化けていくのかを丁寧に追い、ポスト真実が生みだされる工程を解き明かしていきます。冒頭に提示された疑問への答えを知るとともに、情報時代、ネット時代、SNS時代に正しい情報や判断力にリーチするために必要な考え方と心構えを学ぶことができる一冊。翻訳の鈴木先生による巻末の解説も必読!

『ボーダー 二つの世界』 ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィスト著/山田文(他) 訳

ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィストが紡ぐ物語は、やはり面白い。胸にくる。切ない。愛しい。いるかもしれない何か。私達とは違う何者か。そういう存在がいる世界の方が、ずっとずっと面白いとリンドクヴィストは教えてくれる。他者へのリスペクトとは何かを教えてくれる。表題作の『ボーダー』は映画化され大評判となった作品で、映画に引き込まれた人(そして映画がもうひとつだった人)にはぜひ一緒に原作も楽しんでほしい。リンドクヴィストの出世作であり異例の大ヒットとなった『ぼくのエリ』好きにとってはたまらない、彼らのその後の物語も収録。

『わたしの糸』 トーリル・コーヴェ著/青木順子 訳
トーリル・コーヴェさんの描く世界、大好きなのですよ。シンプルな絵柄だけに、いろんな風に読み取ることができる。赤い糸といえば「運命の人」だけれど、自分がイメージしていた運命の人って、案外と狭い視野で限定していたな、と気づかせてくれました。前作『うちって やっぱりなんかへん?』もオールタイム・ベストフェイバリットです。

ここまでは2019年の新刊。最後に一冊、古書からも。

『北欧神話』 パードリック・コラム著/尾崎義 訳

神話や伝説を子どもにもわかりやすいよう再話するパードリック・コラムによる、少年少女のための北欧神話。谷中のひるねこBOOKSさんで、古本で見つけたのですが小張店長の「これがいちばんわかりやすい気がします」の言葉に納得。原書は1920年、日本語訳は1955年に第一版の発売(旧書名は『オージンの子ら』)。ともすると難解になりがちな神話の世界、複雑な神々のストーリーが本当に読みやすい。ディズニーに影響を与えたともいわれるウィリー・ポガニーによるオリジナルの挿絵も素敵。巻末にある民俗学者、谷口幸男さんが読者である子どもたちに「神話とはなんでしょうか」と語りかけながら始まる解説も良いのです。

ウィリー・ポガニーが描く3人の運命の女神。

次点 『moderne mormor mad』(Ditte Ingemann Hélène Wagn著)

今年もまた北欧でも本をあれこれ買いまして。最後に一冊、日本未発売ですがぜひとも紹介したい本をご紹介します。Mormorとはデンマーク語でおばあちゃんのこと。50〜80年代のデンマークのおばあちゃん(家庭)レシピを時代ごとに区切って紹介する一冊で、現代風にヘルシーにアレンジしたレシピも合わせて掲載。時代を代表する器を贅沢に使ってのレシピ写真もさることながら、間に挟まれる当時のFDBの広告デザインがすごい!FDBとはデンマークの生活協同組合のこと。日本ではFDBモブラーの名前で名作椅子を生み出した家具部門が有名ですが、もともとは食品から日用品まで、国民の生活レベル向上を目指して質の良い製品を生産し届けようとした組合で、現在につながるデンマークの暮らしの基盤を作った存在ともいえます。イブ・アントーニをはじめ当時の人気イラストレーター総動員ですか?と思わずにいられない広告の数々に見惚れます。

当時の広告を眺めるのもまた楽し。

我が家でも愛用中のリュンビュー社の器を発見。60年代のレシピで、ネギを衣でくるんだ一品。そんなのあるのか、食べるのか……という料理がいっぱい出てきます。