6/27公開。北欧デザイン的ウェスタンの誕生『悪党に粛清を』

POSTER 再校+映倫見本
マッツ・ミケルセンが西部劇に出る。それだけで劇場に足を運ぶ価値があるわけですが、西部劇という言ってみれば”古臭い”映画ジャンルを北欧の監督がどう料理するのか?それも本作の見どころです。
私も西部劇といえばお決まりの展開やキャラクター描写で「全部、同じじゃん」くらいに思っていました。でも映像、脚本、俳優が揃うとあんなに引きこまれてしまうものなんですね!あっという間の90分でした。特筆すべきは映像の美しさ。アイスランド映画『湿地』もそうでしたが、薄闇のシーンが美しい。北欧人は明かりの使い方が上手だなあとつねづね思っているのですが、映画においてもその腕前は健在。薄明かりの中にそびえる山並は巨大な生き物のように見え、北欧神話に登場する大蛇を思わせます。北欧神話の大蛇はオーロラや北欧ならではの気象現象から生み出されたと言われていて、北欧人の自然に対する畏怖の念の象徴でもあります。本作の映像もまさにそれで、美しい自然が同時に恐ろしくも見える。クリスチャン・レヴリング監督は本作に北欧神話のテーマである「復讐」を反映させたと語っていますが、ウェスタン映画にかかせない要素が復讐と厳しい自然であるとすれば、北欧人監督はまさに適役と言えるかもしれません。
そして映像、脚本、演技と、どれも無駄がない。無駄なカメラワークもなければ、無駄なエピソードやセリフもない。デンマーク映画というとセット撮影や効果音などを禁じアナログな映画手法にこだわる「ドグマ95」の活動を思い出すのですが、表面的な作り物を禁じ、無駄を省くというのは戦後花開いた北欧デザインの根底に流れる考え方でもあります。ドグマはストイックに制約を設けすぎて逆に面倒なことになった印象があるのですが、今回のようないわゆる王道であり手垢のついたジャンルで、かえって北欧人的美学が感じられたのは面白いなあと個人的には思いました。
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写真:©2014 Zentropa Entertainments33 ApS, Denmark, Black Creek Films Limited, United Kingdom & Spier Productions (PTY), Limited, South Africa
本作最大の見どころは、やはりマッツ・ミケルセン。クールなスーツ姿もいいけれど、西部開拓者のスタイルが素敵すぎる…♡労働者系の制服が似合うタイプだな、マッツ。今回の作品に一つ足りない物があるとすれば、マッツの笑顔。鋭くもどこか寂しげな眼差しのマッツがニコッとするの、たまらないんですよねえ。でも本作は映画スタート10分後には悲劇が始まりますから、あの「ニコッ」はほぼ登場しないんですよ。ただしマッツ本人が一番気に入っていると話していた冒頭、デンマークから呼び寄せた妻と息子との再会シーンでは稀少なニコッが見られますからマッツファンはぜひ集中して見ておきましょう!
他の俳優陣も適役揃い。マッツ扮するジョンの兄役のミカエル・パーシュブラントも強くてかっこよくて、この兄弟無双ですよ。無理とは思いますがスピンオフをやってほしいです。そしてエヴァ・グリーン。これまでヴァンプっぽいアメコミのキャラのような印象が強かった彼女ですが、19世紀の衣装がぴったり!マッツと同じ画面に映ると2人のフェロモンがすごすぎて、むせそうです。悪党の一人にはサッカー選手のエリック・カントナの名も。にわかサッカーファンの私ですら知ってる名前ですから、往年のファンはたまらないのでは。
「なぜ北欧で西部劇?」と思った方もいるかもしれません。じつはアメリカには19世紀〜20世紀初頭にかけて北欧から大量に移民が移り住んでいます。資源の乏しい北の土地を見切り、多くの若者が新天地を求めて移住したのです。スウェーデンからの移民はとくに有名で、西部劇の舞台にもなるミネソタ州に最も多く移り住んでいます。そんなわけでスウェーデン移民を描いたウェスタン映画はこれまでに幾つか作られているんですね。そういえばアメリカのTVドラマシリーズ『ボードウォーク・エンパイア』でもノルウェー移民が禁酒法時代にアクアビットを醸造するエピソードがありました。デンマークからの移民も多かったようですが、デニッシュウェスタンはおそらくこれが初だとか。北欧的美学が随所に感じられるデンマーク版西部劇。ありそうでなかったウェスタン映画の登場です。
映画『悪党に粛清を』オフィシャルサイト
配給:クロックワークス/東北新社 Presented by スターチャンネル
6/27(土) 新宿武蔵野館ほか全国ロードショー
マッツ〜♡♡♡