9/4(金)より公開『グルスポングの奇跡』。マリア・フレデリクソン監督に聞く本作の「北欧らしさ」とは
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9月4日より日本公開となった『グルスポングの奇跡』。スウェーデンのアカデミー賞にあたるグルドバッケ賞で最優秀ドキュメンタリー賞を受賞した、衝撃の実話を伝える作品です。監督は、これまでも女性の視点から社会や人間関係を見つめる作品を数多く手がけてきたマリア・フレデリクソン。
天に導かれるかのように奇跡的な再会を果たした姉妹の感動的な物語……のはずが、次々に新しい事実が発覚し、北欧ミステリさながらの急展開をみせるドキュメンタリー。いったい何が真実なのか、まったく予測のつかない展開ながら114分ずっと目が離せず、「まるでサスペンス」「北欧ノワールのよう」「ツイン・ピークスみたい」とのコメントが寄せられている話題作です。
日本公開に合わせて来日されたフレデリクソン監督にお話を伺うことができました。
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イントロダクション(公式サイトより)
家探しの途中、“神の啓示”のような絵画を見つけたノルウェー人姉妹が、偶然、亡き姉に瓜二つの女性と出会う。さらに奇跡のような偶然が重なり、姉妹はこの出来事を記録に残すため、フレデリクソン監督に「映画にしてほしい」と依頼したことから、本作の制作が始まった。
スウェーデンとノルウェーの国境を越えて紡がれる再会の記録は、やがて信仰と血縁、そして「真実とは何か」という根源的な問いへと発展していく。ドキュメンタリーでありながらスリラーのように緻密で、痛切に人間的。 偶然の出会いが“奇跡”へ、そして“混乱”へと変わっていき、観る者は現実と虚構の境界を見失っていく ─ 。
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—-本作では思いがけないことが次々に起こって、本当にドキュメンタリーなの?と思わずにいられない作品となっていますが、編集する上で、苦労された部分を教えていただけますか。
大変だったことは、それはもうたくさんあるのですが……まず、編集担当者を一度、変更しています。新しい担当者は、わたしが何を撮ろうとしているか、すでに何を撮っているかを瞬時に理解できる方でした。それでも編集作業は難しかったですね。
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© 2023, Ballad Film, SVT, Film i Väst, Film Stockholm, Mer Film, Good Company Pictures. All rights reserved.
大事にしたのは、3人を公平に描くこと、つまりカーリとマイ、オーウラグの3人が映画を見て、「自分が公平に描かれている」と感じられるかどうかが重要でした。彼女たちそれぞれの真実があります。そこを尊重しながら、伝えることが課題だったのです。
もうひとつは亡くなった姉リータについてです。撮影が始まった時点では、何が原因で亡くなったのか、これからどのような事実が発覚するのかわかりませんでした。リータの死を目撃した男性に会ったのは、撮影がだいぶ進んでからのことだったんです。
彼女はすでに亡くなっている人ですし、彼女のことを扱うのは倫理的にどうなのか。そこはずっと大きな葛藤がありました。でもリータの血縁であるカーリやマイ、娘のトリーネに意見を聞きながら、進めていくことができました。
撮影時は、映画に出てくる人以外にも、たくさんの人に会っています。リータの親友や、リータが名付け親になった女性、また映画に映っている警察官以外に、リータが亡くなった当時の捜査を担当していた方にも会っています。でも全員を出すとあまりにも長くなって、観客も混乱してしまいます。それでカットせざるを得ませんでした。ただ、映画に登場していなくとも、わたしの中での理解はとても進んだので、話を聞けたのはよかったと思っています。
—-オーウラグとの会話によって、この作品が終わります。あのシーンで終わらせることにしたのはなぜですか?
いくつか理由があるのですが、まずこの映画では次々に新しいことが起こって、もうこれ以上は起きないだろうと思ってからも次の展開を迎えて、また真実が発覚していきました。オーウラグからの電話もそのひとつです。
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彼女からのあの電話は、もう撮影を終えて編集段階に入っているときにかかってきたんです。とても驚きましたが、同時に思いました。「この物語は終わらないのだ」と。人生と一緒で終わりがなく、予想がつかないことが次々に起こっていくのだと。だからあの会話を最後に入れました。
また、本作は家族の物語です。誰を家族にするのか、誰と関わりを持ちたいのか、それは自分で選ぶことができる。あの電話のシーンについて、最後までわたしは入れるべきか迷っていました。でもオーウラグに確認したところ、彼女自身がぜひ作品に入れてほしいと願っていました。あのシーンを入れることで、観客のみなさんにも何を信じるべきか、判断を委ねられるだろうとも思いました。そして、わたしが本作を作るときに感じていた驚き、新しい事実が発覚して、それまでの話がひっくり返されてしまう……そうした感覚を観客のみなさんにも共有してほしかったんです。
—-姉妹が借りたアパートに始まり、本作ではインテリアが印象的に映し出されていました。姉妹のアパートは50〜60年代頃の代表的なスタイル、またノルウェーの田舎の実家は簡素ながら農村の古き良き時代のインテリアを体現しているようでしたし、一方オーウラグが座る部屋は、アート作品に囲まれていました。北欧の人にとって部屋とは、自分らしさを出すものともいわれます。部屋を映すのは、意図的なものでしたか?
まず大事だったのはオーウラグの部屋を映すことでした。あの部屋は、彼女の人柄やパーソナリティを非常によく象徴していました。撮影にいくたびに新しい絵や彫刻が飾ってあって「前回と、どこが違うかわかる?」と聞かれました。あの部屋は、彼女らしさをとてもよく表現しているんです。
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一方のカーリとマイの部屋ですが、もちろん彼女たちもあの部屋を大事にして、居心地のよい空間にしていましたが、オーウラグのように自分をアピールするタイプとは違います。オーウラグの部屋は「これこそわたし」といった感じですが、カーリとマイは「ここがわたしの家」「ここが好きで、居心地がいい」といった感じですね。だから部屋を映すのは、本作にとって大事なポイントでした。彼女たちがどんな人物かを知る手がかりになりますから。
付け加えると、カーリとマイが手に入れた部屋、つまりオーウラグが売ろうとしていたグルスポングのあの部屋は、オーウラグのスタイルではなかったんですね。彼女はあそこに住んでいたわけではなくて、週末にスウェーデンでアートを手に入れるためだけにあの部屋を持っていたんです。だから装飾もしていなかった。
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—-でも、あの部屋を売るにあたって、今回の物語のきっかけとなる絵を飾ったというわけですね。
そうです、それでカーリとマイはあの絵ごと、部屋を買うことになりました。
—-グルスポングの場所、スウェーデンとノルウェーの位置関係を示す上で、壁にかけられたテキスタイルの地図がとても効果的だったと思います。監督のインタビューで、偶然ネットオークションで見つけられたと読みましたが、あのテキスタイルを選んだ決め手は何だったのでしょう。
この映画には、位置関係を示す地図が必要でした。観客に、グルスポングとノルウェーの距離がどれだけ遠く離れているかをわかってもらいたかったのです。映像的な処理で説明するよりも実際の地図を使いたかったので、オンラインのオークションであの地図を発見したときは、まさに探していたのはこれだと思いました。テキスタイルのいちばん上に、クジラの絵が描いてありますよね。この物語は、映画の冒頭で語られているように、カーリとマイがクジラ型のアトラクションに乗って怪我をするところから始まります。だから、これだ!と思いましたね。
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—-それで、ネットオークションで買ったら、発送元がグルスポングだったそうですね。
そうなんです。グルスポングから送られてきたのを見て本当に驚きました。本作を撮っている間は、何かの導きとしか思えない出来事がたくさん起きました。そうした”サイン”をちゃんとキャッチできるように、気持ちをオープンでいるようにしていました。
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—-本作を観ている間、さまざまな作品が頭をよぎりました。『ツイン・ピークス』『ミッドサマー』『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』など。ドキュメンタリーなのか創作なのかわからなくなる感覚は、スウェーデンの監督アンナ・オデルのことも思い出させました。撮影しているとき、また編集をされる上で、特定の作品を意識したり、参考にされたことはありましたか?とくに『ツイン・ピークスを思わせる』といったコメント、メインビジュアルの写真がローラ・パーマーを思わせるとのコメントもありましたが、監督自身はどう思われますか?
じつは撮影中も話していたんです。北の町で、閉じられた小さな世界にいたので、まるでツイン・ピークスの世界みたいだね、と。ただメインビジュアルについては、撮影時に意識して撮っていたわけではなく、むしろ忘れていたくらいなので、編集の最終段階で「まるでローラ・パーマーみたいだな」と気づいて、自分でもびっくりしました。公開してから「ツイン・ピークスみたいだ」というコメントはたくさんいただきましたが、好きな作品なので言及してもらえるのは嬉しいですね。
あげていただいた作品もすべて好きなので嬉しいです。もちろん作る上で何より意識していたのは、しっかり自分の作品にすることです。わたしはドキュメンタリーを作る人間ですが、ドキュメンタリーに限らずたくさんの映画を観ますし、ドキュメンタリー以外の作品からもインスピレーションを得ています。本作を作る上で参考にした作品としては『物語る私たち』、そしてもちろん『同じ遺伝子の3人の他人』です。そういえば『ファーゴ』みたいだとの意見もあって、『ファーゴ』も好きなので嬉しかったですね。
この作品では、大胆な音楽の使い方をしています。じつは編集の段階で、ちょっとフィクション作品のように演出しすぎているのでは、とも指摘されました。ただ本作ではフィクションよりも奇妙なことが実際に起きているので、これくらいダイナミックな音楽や編集は必要だと判断しました。
—-わたしは本作を観て、アリ・アスターが『ミッドサマー』で象徴的に描こうとしていた北欧らしさ、たとえば同調圧力とか、他者を取り込もうとする一方で拒絶する面など、そういった部分が思いがけず炙り出される作品になっていると感じたんです。フレデリクソン監督が、インタビューで「このように”北欧的”な作品が、海外でも受け入れられるだろうか」と話されていたのも読みました。監督にとっては、どの辺りが北欧的と思われたのでしょうか。
はい、撮り終えてから、はたしてこの物語が北欧に住んでいない人に伝わるだろうか、と思いました。人間関係のあり方など、これはもしかしてとても北欧的な話であって、それを理解してもらえるのだろうか、と。でも公開して、本作が各国で受け入れられているのを見て、北欧に限ったテーマではないのだとわかりました。
本作の北欧らしさといえば、まずノルウェー北部の雄大で美しい自然が映し出されていることですね。実際にはもっと撮ってあって、撮影監督も入れたがっていました。ただ自然を見せる映画ではないので、そんなに入れることはできませんでしたが。
それから、映画に出てくる女性たちです。わたしはあのノルウェー人の女性たちをありのままにしっかり描こうと思いました。それが「北欧ならでは」なのかはわかりませんが、彼女たちは、自分がどう思われるかを恐れずに、とても率直に自分の意見を口に出します。その部分は、しっかりと映したかった。彼女たちがどういう人間なのか、それをありのままに映そうと意識しました。また、彼女たちが育った環境や出てくる町など、場所についても率直に映そうと思いました。北部の田舎の地域だったり、グルスポングというとても小さな町についても率直に、そのままに映そうと。それが北欧的な要素になっているのかなと思います。
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日本のみなさんにとっても、とても遠い場所の物語ですが、共感してくれるところがあるといいなと思っています。
—-日本の著名な臨床心理士の方が、本作にコメントを寄せられていました。日本の観客にも訴えるテーマなのだと思います。ちなみに、スウェーデンやノルウェーなど本国での反応はいかがでしたか? これまで公開された国によって、違った反応が見られたりしましたか?
スウェーデンでもノルウェーでも、好意的な反応が多くて、たくさんの方が本作を映画館で見てくれました。視聴後にQ&Aも行った際には、おもしろい質問が出ましたね。「次回作はいつですか?」と。「どうか、これで終わりにしないでほしい。『グルスポング2』を撮ってくれ」と。わたしはもう、撮るつもりはありませんが!
また本作を観終えたあとに語り合ったり、議論する機会が生まれたと聞いて、とても嬉しく思っています。上映後に知らない人同士でビールやコーヒーを飲みに行って語ったり、連絡先を交換したり、オンラインでもこの映画に関する議論や考察がたくさん交わされていました。映画を通して、人々の会話が生まれたのは嬉しいことです。カーリ、マイ、オーウラグに対しても好意的な反応でしたし、グルスポングという、あの小さな町に映画をきっかけに多くの人が訪れたと聞いて嬉しいです。
地域による反応の差はとくに思い当たりませんが、年齢による違いはあったかもしれません。嬉しかったのは、若い女性からの反応が多かったことです。わたしは以前にも高齢女性をテーマにした映画を撮っていて、今回も高齢の女性たちの映画です。でも若い人たちにとって「おばあちゃんたちの退屈な話」ではなく、エキサイティングな話として受け止められているのが嬉しかったですね。一方でひとつの例ですが、高齢の観客からは「わからない」と率直な反応もいただきました。結末に、はっきりした答えの出る映画ではないですからね。
グルスポングには小さな映画館もあるのですが、これまで公開したなかで、もっとも観られた作品となったようです。動員数を聞く限り、おそらく住民のほとんどが観たのではないかと思います。映画館のすぐそばにピザ屋があって、メニューに「奇跡のピザ」があるんです。それを食べて帰るのがお約束になっているみたいです。3日前にもカーリと話したのですが、「奇跡のピザ」を買って食べたって話していました。
—-「奇跡のピザ」ですか! 映画とのコラボで作られたピザなんですか?
そうです。カーリとマイがトッピングを考えたんです。すっごくたくさんのトッピングが一枚のピザの上にのっていて、まるでこの映画みたいなんです。
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マリア・フレデリクソン監督と。
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インタビュー終了後、フレデリクソン監督に「ピザは食べましたか?」と尋ねたところ「具が多すぎて、わたしには無理」との返事が。あれだけの要素が絡み合った内容を見事なドキュメンタリーに仕立て上げた監督が、ピザは消化できなかったか……と思わず笑いそうになってしまいました。
わたしは本作を観終えて、「これは、映画にしてしまって大丈夫だったのだろうか……」と思ったんですね。もともと思っていたのとは違う方向へ話が進んでいき、カーリやマイ、オーウラグたちの葛藤や苛立ちもそのまま映し出されていたので、はたして当人たちは大丈夫だったのだろうか、と。
でもインタビューを通して、監督が3人それぞれとの信頼関係を優先に考え、その上で起こっていることをありのままに伝えようとした、そのバランス感覚がすごいなと改めて思いました。「奇跡のピザ」の話も、カーリたちが本作品をとても誇らしく思っていることの表れのように思えて(監督も「そうだと思います」とお話されていました)、お話を伺えてよかったです。
インテリアの話もとても興味深かったですね!「北欧の人々はインテリアにこだわる」とはよく言われる話ですが、こだわり方の違いも見えてくるようでした。それにしても、ノルウェーで一人暮らししているおじさんの部屋は、どうしていつも可愛いのか(わたしの長年の調査対象です)。
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ちなみに公開にあたって、こんなコメントを寄稿したのですが、わたしがとくに「ミッドサマー的シーンだ」と思ったのは、カーリ達の実家でみんなで食事をするシーンです。
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農村部の素朴だけれどよく整えられた家で、みんなで食卓を囲む。のどかで美しいシーンながら、暮らしの根っこには宗教的な価値観が深く根付いていて、歓待しながらもすごく自然にこちら側へ取り込もうとする雰囲気に、怖さを感じました。
本国では上映後、語らずにはいられない観客が続出したという本作。週末に東京で開催された監督のQ&A付上映でも、たくさんの鋭い質問が出たようです。日本でも多くの方が本作を観て、この物語について語る機会が増えたらいいなと思っています。
『グルスポングの奇跡』公式サイト
2026年9月4日(金)より、池袋シネマ・ロサ、シネマート新宿 ほか全国順次公開
映画『グルスポングの奇跡』
© 2023, Ballad Film, SVT, Film i Väst, Film Stockholm, Mer Film, Good Company Pictures. All rights reserved.
監督:マリア・フレデリクソン
出演:カーリ・クロー、マイ=エーリン・ストーシュレットゥン、オーウラグ・バッケヴォル・オストビー 他
原題:Miraklet i Gullspång|スウェーデン・ノルウェー・デンマーク|2023年|114分|カラー|ノルウェー語・スウェーデン語|フラット|5.1ch|G
日本語字幕:常磐彩|字幕監修:青木順子|後援:スウェーデン大使館、ノルウェー大使館、デンマーク王国大使館|配給・
宣伝:カルチュアルライフ