アカデミー常連、ノルウェーのベント・ハーメル監督インタビュー!新作、リア充、コーヒーの話まで

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アカデミー外国語映画賞ノルウェー代表作品にも選ばれた『1001グラム ハカリしれない愛のこと』が10月31日より日本で公開され、東京国際映画祭で審査員も務めたベント・ハーメル監督にインタビューする機会をいただきました!

『1001グラム ハカリしれない愛のこと』映画レビューはコチラから

ベント・ハーメル監督といえば北欧でもっとも有名な映画監督の一人。2003年の『キッチン・ストーリー』2008年の『ホルテンさんのはじめての冒険』もアカデミー外国語映画賞代表となっています。私は『キッチン・ストーリー』が大好きで(北欧あるあるネタも出てくる北欧好きにおすすめの一本です)自著『コーヒーとパン好きのための北欧ガイド』でも、この作品を紹介しているほど。

今回4媒体による同時インタビューということで時間的な制約も厳しく部屋に入るとこれまでに体験したことのない緊張感が。写真撮影の有無など条件によって座席が決められ、インタビューの順番が決められ……と事務的なことに私達インタビュアー全員がバタバタとしていたら、まず監督が身を乗り出して握手をしてくれました。さすが。

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私の質問順は最後に。まずは他のインタビュアーから作品についての質問が続きました。

ー国立計量研究所をテーマにした理由は?これまでずっと男性が主役でしたが、今回初めて女性を主役にした理由は?主役を女性にすることでこれまでと違うアプローチになりましたか?

「キログラム原器については、ラジオのドキュメンタリーでその存在を知ったんだよ。

女性を主役にしないの?とは、これまで何度も聞かれた。もう知ってるかもしれないけれど、去年妻を亡くしたんだ。この映画の編集中に亡くなった。今回、アーネ(主役のマリエを務めた女優さん)をキャスティングしたことに妻が関わっているという説があるんだけどね、こういうことなんだ。アーネと妻がノルウェーの映画祭でちょうど一緒になり、妻が「どうして夫は男性ばかり主役にするのかしら」、それに対してアーネが「私から監督に話してみる」と会話を交わしたそうなんだ。それで妻は「主役を女性にしたのは私のアイデアよ」と言っていたそうだけど……それはどうかな?ふふふ。」

え、違うの!?……ちょっと煙に巻かれた感じですね。

「この映画の脚本を書き始めた当初は、主役が男性でも良かったんだよ。映画のテーマは私達が抱える孤独や、しあわせの基準。いかに私達がものさしにしがみついてしまうか。それを描きたかった。だから男性が主役でも良かったんだ。

確かに女性を主役にするのは挑戦ではあったと思う。でも男性でも女性でも役作りする上でのアプローチは同じだよ。そこに違いはない。俳優は個々に違うものであって、ジェンダーで考えることはないよ。」

こういう言葉がさらりと出てくるあたり、北欧人らしいなあと思ってしまいます(ノルウェーの男女平等ランキングは世界第3位。他の北欧諸国もトップ5を独占しています)。北欧で男女平等への試みが高まったのは70年代以降〜なので、監督くらいの年齢だと男女平等の概念は浸透しているのでしょうね。

ー今回は、これまでの作品と比べて笑いの要素を抑えた印象。よりシリアスなテーマを扱っていると思いましたが?

「私の作品はよく「コメディ」とも称されるんだけど、コメディを作った覚えはないんだよ。コメディと言った方が、売れるんだろうね。ただ映画を作る上で、いつもユーモアの眼差しを忘れないようにしている。ユーモアは世界をよりよく理解するために必要なものだからね。

作品によってユーモアの割合が違うというのはあるだろうね。確かに、今回は抑え気味と言えるかもしれない。主役のマリエは感情をずっと抑えていて、最後にイエスという。最後にやっと笑うというストーリーだから、そう感じるのかもしれないね。」

ー映画の中で青色が効果的に使われていました。演出について聞かせてください。

「今回の作品ではフレーミングや構図、色彩設計には綿密な計画を立てた。マリエの内なる旅を表現する上で大切だったからね。例えばノルウェーは寒い国だから青や寒色で描かれている。ノルウェーは建築に厳しいルールがあって街並みも秩序だっているし、パリに比べると寒いし、冷たい雰囲気かもしれない。一方パリのシーンではゴールドや、より自由な雰囲気を出しているよ。

もうひとつ大切なのがマリエとパリをつなげるもの。それはじつはお父さんなんだ。マリエのお父さんは自由人で言ってみれば無秩序な人。だから彼の農園には暖かみのある色があり、それがパイ(マリエの相手役)につながっていくんだよ。ただそうした仕掛けは、ストーリーから感じとってほしいんだけどね。

ちなみに舞台となるノルウェー研究所の建物を手がけた建築家は知り合いなんだ。それぞれの部屋が完璧にクリーンに保たれ、温度もコントロールされていて、まるで浮いているような空間なんだよ。北側の柱は青、南側は赤と決まっていたり、面白い建築だった。そうそう、撮影で使う場所は赤い柱だったから、青く塗らせてもらったんだよ。」

私はてっきり、ノルウェーの研究所って本当にあんな風に青いのかしら、ノルウェー人ってほんと青と赤(国旗の色)が好きだしなあ……と思っていたのですが、さすがにあの徹底した青トーンは演出だったのですね。

さて私の番です。作品について聞きたかった質問は他の方が聞いてくれたので、私からはこんな質問をしてみました。

ー『キッチン・ストーリー』ではスウェーデン人とノルウェー人の交流が描かれていました。今回はノルウェーとフランス。そうした人種の対比は映画のひとつのテーマなのでしょうか?だとすれば監督にとってノルウェー人らしさとは?

「……それは難しい質問だね。君は日本人らしさについて答えられるかい?」

と逆に質問されてしまいました。作品を作る上で監督が優先していることや、そもそもの監督の価値観がわかればなと思っての質問だったのですが、抽象的すぎたかしら。質問しなおした方がいいかしらと焦っていると、ちゃんと答えてくれました、監督。

「ノルウェーは100年前はヨーロッパでもっとも貧しい国だった。それが石油が見つかってリッチになった。でもお金を持ったから幸せかといえば、最近の調査では幸せではないと答える人が多かったらしい。残念だよね。世界的には民主主義の国として成功しているように見えるけれど実際に暮らしている人はネガティブなことを話している。年金問題とか、高齢化とか社会コストがかかりすぎているんだ。

お金は、食べていくとか子どもを育てるために最低限必要なものではあるけれど、それ以上はあれば幸せになるというものではないんだ。

北欧はバイキングの国としても知られているけれど、文化的には若い国だと思う。今でこそコーヒーやおいしい店が増えたけど80年代はひどかったよ!まだ学んでいる途中だね。

ただノルウェーは人口が少ないから、何をやっているかすぐわかる。透明度が高いということは言えるね。

でも映画ではそういった人種の比較をテーマにしているわけではないよ。そうそう、映画の中で会議に遅れてくるのは日本人なんだ。日本の人は真面目だからあえてそういう役柄にしたというのはあるよ。」

最後にもうひとつ、ぜひ聞いてみたかった質問をぶつけてみました。
ー監督の作品では淡々としつつも細やかな心の交流、幸せの形をリアルに描いている。それができるということは、あなた自身が幸せを知っているからじゃないかと思うのですが、監督は幸せですか?

「イエス、だね。でもいつも幸せっていうのはヘンじゃない?それじゃ拷問だよね。楽しいことは意識的に続けていくのが大切だと思う。それから人生に感謝すること。与えられるのは当然ではない。そういう気持ちが大切だろうね。」

……やっぱりリア充だった!そしてやはりスマートだった。「いつも幸せだったら拷問」は名言。「ユーモアは人生をよりよく理解するためのもの」という言葉も素敵。

監督の作品って、物語は淡々として展開も地味なのに、どうしてこんなにも受け入れられて興行的にも成功しているのか不思議だったのですが、そのバランスが絶妙なんだなと本人にお会いして思いました。リアルな現実を見つめる冷めた眼差しと、光が差す瞬間の暖かさ。それを具体化して伝えるのが上手い。『1001グラム ハカリしれない愛のこと』もまさにそんな作品で、他人とどうにもすれ違ってしまう不器用な主人公が、心を開いて大胆になっていく道のりを観客も一緒に体験できる。私、なんだか周りと噛み合っていないなあ……という人、マリエと一緒にノルウェーからパリへ旅してみたら気持ちがすっと明るくなるかもしれませんよ。

1001グラム ハカリしれない愛のこと』公式サイト

ちなみにインタビューでは、こんな嬉しい出来事が。自己紹介の際に「こういう本を書いています」と『コーヒーとパン好きのための北欧ガイド』を見せたら思いの外、興味を示してくれた監督。しばらくページをめくって、じっくり中身を見てからJAVAのページを指さして「このお店がこんなに大きくなる前の小さな店の時代によく通っていたんだよ。この店から1ブロックくらいの近所に住んでいたんだ」と話してくれました。

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インタビュー中も「今でこそコーヒーがおいしい国で……」と話す下り、「今やバリスタチャンピオンもいるしね」「話題の店も増えてるしね」とぽそっと話していた監督、もしかしてコーヒー好き?

インタビュー終了後に再び「もう一度その本、見せてくれる?」と言われたので「良かったらプレゼントします」と伝えたら「ほんとに!?」と喜んでくれて……私こそ大喜びですよ!大好きな監督に自著を手にとってもらって、気に入ってもらえるなんて。

しかも次の本の企画を話したら興味を持ってくれた!もしかしたら本の中に監督の言葉が登場するかも……です。

最後にノルウェー語で「トゥーセンタック!」と言えました。ノルウェー夢ネットの青木さんからの「ノルウェー語で話しかけて」ミッションコンプリートしました〜!

名古屋のTRUNK COFFEEでは、映画とタイアップメニューが登場するようです!じつはちょうどメニュー考案時に名古屋にいまして、「ノルウェーといえば……あの味」とアイデア出しを一緒にしてきました。TRUNKのおいしいコーヒーと一緒にどんなメニューが登場するのか、名古屋のみなさんお楽しみに!