7/3(金)公開『きれっぱしの愛』パルマソン監督に聞く「フィットするけど、していない」家族のかたち
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7月3日より公開となる映画『きれっぱしの愛』。アイスランドの鬼才フリーヌル・パルマソン監督の新作で、昨年のカンヌ国際映画祭ではプレミア部門で上映され、アカデミー賞のアイスランド代表にも選ばれた注目作です。
前作『ゴッドランド/GODLAND』では、19世紀の終わりにアイスランドへの布教を命じられた宣教師を主人公に宗教的で壮大な物語を描き、その前の『ホワイト、ホワイト・デイ』では、元警官が妻の事故死をきっかけに彼女の不貞を知り正気を失っていく様を淡々と描いたパルマソン監督。アイスランドの厳しい天候や、真っ白な霧を前に自分を見失っていく主人公たちのシビアな物語とはうってかわって、新作では爽やかなアイスランドの自然を背景に、妻と元夫、3人の子どもとかわいいワンコからなる家族の物語をコミカルに描いています。物語で重要な位置を占める3人の子どもとワンコは、監督自身のお子さんと愛犬パンダ(なんとカンヌでパルム・ドッグ賞を受賞!)が演じているのも見どころ。
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あらすじ
北欧・アイスランドの田舎町。芸術家のアンナは、しっかり者の長女イダ、わんぱくでいたずら好きな双子グリムールとソルギス、そして愛犬パンダと暮らしながら、芸術家としての道を模索していた。若くして結婚したものの、今や<もう夫婦ではなくなった>はずの元夫マグヌスは、いまだに情を断ち切れず、何かと理由をつけては家を訪ね、食卓を囲み、ピクニックにまで付き合う始末。気がつけば、まるで<まだ家族>であるかのような日常を再び送るようになるが――。
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これまでのパルマソン作品を知る人からすると、温かなトーンで描かれる家族のささやかな日常が物語の中心とは意外にも思えますが、やはり不穏な影がちらついて、どうにも心穏かには観ていられないのが、本作の魅力。作品の背景や、監督がこだわった点についてインタビューで聞きましたので、ぜひ本作と合わせて読んでいただければと思います。
※ラストシーンにまつわる質問もありますので、ぜひ作品を鑑賞してから読んでくださいね!
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ーまずはロケ地について教えてください。アイスランドらしい絶景や自然に囲まれた環境ですが、あれは監督が暮らしている場所なのですか? 首都レイキャビクからはだいぶ離れているのでしょうか。
「はい、アイスランドの南東の沿岸にある、ヘップン(Höfn)と呼ばれる小さな町で、私と妻が生まれ育った場所です。私たちはデンマークで暮らした後にあの場所に戻っています。レイキャビクからは車で6時間くらいかかります」
ー『ゴッドランド』や『ホワイト、ホワイト・デイ』など前作に比べると、本作に映し出されるアイスランドの天候が爽やかで明るく、アイスランドに行きたくなるようなシーンが多かったのが印象的でした。これまではどちらかというと厳しい天候が多かったように思いますが。
「私はいつも、天気や気候を、映画の効果を高めるために使っています。もしストーリーが、厳しい風や激しい雨を必要とするならそれを撮ろうとしますし、反対に暖かいそよ風や明るい夏の夜が必要であれば、それを撮るようにしています。
絵を描く人が使うパレットのように、季節や天気を使っているんです。シーンをもっと冷たくしたいのか、寒くしたいのか、暖かくしたいのか。その方向性によって天気を撮ります。本作には暖かなトーンが必要だったので、夏に撮影してその様子を使いました」
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ー監督の長編作品で、女性が主人公になるのは初めてですね。これまでの作品では、男性が主人公で、男性性や支配する側のプライドや自我が打ちのめされるようなエピソードが描かれていました。本作でも父親のマグヌスや、画廊の男性の「男性的」な部分や、父親であり男性としてのプライドが崩されるようなシーンが、コミカルに描かれています。こうした要素は、監督が常に描きたいと思っていることなのでしょうか。
「男性的であること、その弊害をテーマにするつもりはないのですが、私自身は男性です。私はアーティストとして、自分の身の回りにあること、自分を囲んでいる環境、リアルなことを作品にしたいと思っています。だからアンナがアーティストになる設定は自然な流れでした。
この作品には3つの物語があります。ひとつは漁船で起きていること。以前、漁船のドキュメンタリーを仕事で撮っていたことがあるんです。季節によって穫れる魚が違うのですが、それを記録していました。漁船の世界はよくわかっていたから、映画にしたいと思っていて、だからマグヌスが漁船で働いているのも自然なことでした
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もうひとつの物語はアンナがアーティストで作品を作っていること、そしてもうひとつは家族が彼女の肩にかかっているということ。これも自然なことで、いままでにそうしたケースを見てきました。だからストーリーを考える上で自然に出てきた要素なんです。
私自身は確かに男性なのですが、どう育って、何を見て感じてきたかを表現したいと思っています。先に頭で考えて、何かをアイデアやテーマとして掲げるつもりはまったくありません。私は人間に興味があって、お互いにどういう関係を持っているか、それが私にとって大事なことなんです。人間の原初的な欲望やニーズを探っていくのに、映画というのは、いいツールだと思います」
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ー俳優について聞かせてください。マグヌス役のスヴェリル・グドナソンが、なんともいえない存在感を見せていました。彼はどちらかといえば、これまでは二枚目の役が多いですよね(『ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男』、ミレニアムシリーズの『蜘蛛の巣を払う女』など)。どのような経緯で彼を配役されたのでしょう。
「子ども達と犬、そして主人公アンナの配役は決まっていました。だから彼らにフィットする人、でも同時にフィットしない人を探していました。家族と一緒にいるのに距離感があるような、家族という枠のなかにいるのに、だんだんと離れていくような人物です。
それでスヴェリルをうちの近くに招いて、アンナ役のサーガと、子ども達と一緒にショートムービーを撮ってみませんか?と誘ったんです。そうしたら応えてくれて、週末に一緒に過ごして短編を作ったんです。それを観て、ほっとしました。私が求めていた、ビジョンにぴったりの人だなと思って。それですぐに彼をキャスティングしました」
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ー本作とは別に、彼らが出ている短編もあるんですね!そちらも楽しみです。
「はい、本作とは別プロジェクトで、もう3年かかっているんですが、まだ作っているところです。あと数ヶ月でできあがる予定です」
ー本作のラストシーンでは、光の使い方にとくに気を遣ったと、監督がインタビューで話されているのを見たのですが、どのように気を遣われたのでしょうか。
「あのラストシーンには、美しさが欲しかったんです。あのシーンはある意味、悲しいし、恐ろしいシーンでもあるのですが、それに対比するような美しさが必要だと思いました。最初に撮ったときはあまりにも海が暗く、暴力的な感じで、そこにはただの恐怖しかなかった。
実際に使われているシーンでは、氷河の後ろにちょうど太陽がまわって光の加減がとても美しく、このシーンにぴったりでした。私はこのシーンを、ダークな感じで終えたくはなかった。観た人が自分に好きなように解釈できるように、ニュートラルな雰囲気で終えたかったんです。
ただ、最初に撮ったものよりは明るく軽さのあるシーンになりましたが、かといってセンチメンタルな感じにしたかったわけでもないのです。単にダークなのも、ただシニカルなのもイヤで、ダークさと美しさ、その間くらいのトーンにするのが重要だったので、うまく撮れたかと思います」
ーあのラストシーンについて、わたしは楽観的に受け止めました。彼は救われるのではないか? と。監督自身は、あのシーンをどのように捉えていらっしゃるんでしょう?
「あなたが、そういう風に感じてくれたのはとても嬉しいです。さっき話したように、もし最初にテイクした暗い方の映像を使っていたら、きっとそうは感じなかったと思うんです。
わたしがどう感じるかですが、自分と作品との距離はとても奇妙なもので、作っているときは強烈にその世界に入り込んでいるのですが、終わってしまうとほとんど思い出のようになってしまって、作り終えたら何年も自分の作品を観ることはないんです。だから、いま観てどう思うかは、わかりません。でも、こうして本作について話したり考えたりしていると、すごく温かい気持ちになるんです。だからシニカルでダークというよりも、あなたが感じたように、希望のあるような、あったかい感じに受け取るんじゃないかなと思います」
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インタビューを終えてまず思ったのは、パルマソン監督が物語を作る上でも、表現の上でも、「自然であること」を突き詰めていること(余談ですが、パルマソン監督のファンだというアリ・アスター監督とのインタビュー動画では、本作におけるマジックリアリズムの話が出てきて、そういったシーンでもCGなどは使わず「手づくりであること」にこだわった、と話されていました)。
元夫のマグヌスが働いているのが漁船という、アイスランドの中でも男社会がもっとも根強く残る職種で、一方のアンナがアーティストというのは現代らしくわかりやすい対比のように思えましたが、監督にとってそれが自然な選択であったというのも興味深い話でした(だからこそ共感しやすく、でも決して説教くさくならないのかなあと)。でもそういえば、漁船の中でもマッチョな会話だらけかと思えば、それだけではない関係性も描かれていたのがおもしろかったんですよね。
ちなみに公開にあたって、こんなコメントを寄せました。
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本作では、アイスランドの小さな町に暮らす家族の日常 ーキノコ狩りやベリー摘み、ピクニック、冬のアクティビティなどをのぞけるのも、北欧の暮らしに興味がある方にはたまらないポイントかと思います。また彼らが暮らす家のインテリアがとっても素敵! 窓や照明の配置、キッチンの造りなど、巻き戻してじっくり観たくなりました。
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そしてラストシーンでパルマソン監督が、こだわったという光。日が暮れてからも薄闇がずっと続き、夜なのに夕方のような、これ何時頃だろう?と思う、そんな北欧の夏の光を、ぜひ映画館で感じてみてください!
7月3日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか、全国順次公開
『きれっぱしの愛』
脚本・監督:フリーヌル・パルマソン
出演:サーガ・ガルザルスドッティル、スベリル・グドナソン
配給:NOROSHI、ギャガ
©STILL VIVID, SNOWGLOBE, HOBAB, MANEKI FILMS, FILM I VÄST, ARTE FRANCE CINEMA
原題:Ástin sem eftir er(英題:The Love That Remains)/2025 年/アイスランド、デンマ
ーク、スウェーデン、フランス/カラー/ビスタ/5.1ch/109 分/
字幕翻訳:松岡葉子
