2025年の北欧映画ベスト5

2025年の北欧映画ベスト5を、選んでみました。今年もまた、ちょっと何言ってるのかよくわからん部分もあるかもしれませんが熱い思いだけは伝わる、そんな振り返りレビューでご紹介したいと思います! 今年はノルウェーが強かった〜〜🇳🇴🔥🇳🇴

1. LOVE(ノルウェー)

日本公開時は『オスロ 愛の3部作』として『DREAMS』『SEX』とともに一挙公開となったダーグ・ヨハン・ハウゲルード監督作品。3作品とも良かった!なかでも『LOVE』は生涯ベストに入れたいほど。

ちょうど本作公開の少し前にジェームズ・ガン監督の『スーパーマン』が話題というか、物議を醸していたんですよ。ガン監督は、新しいスーパーマンについて「人間の優しさこそ価値あるもので、私たちが失ったもの」と話していて、『LOVE』もまさにそんな映画でした。優しい人こそが強く、優しさこそが他者を、コミュニティを救う。『LOVE』にはこんな会話が出てきます。

「いつもそんなにやさしいのか?」
「ああ、人生は短いからね」

リボンをかけて胸の奥にとっておきたいような、人生を祝福するような言葉が交わされる。磨き上げられた大げさな言葉ではなく、道をいく普通の人々が話す言葉がすくい取られ、その会話がそれぞれの人生を肯定してくれる。だから彼らの会話をずっと聞いていたくなるし、自分だって優しく強くなれる気がしてくる。ちなみにハウゲルード監督は子どもの頃から人の会話を聞くのが好きだったそうで、ちょっとクドカンみたいだなと思いました。

あなたはあなたのままでいいし、あなたがあなたらしく生きることは、決して誰かを不快にさせたり、脅かしたりしない。わたしがわたしらしく生きることは、他の誰かを勇気づけるんだ、と。わたしは『LOVE』を観て、『スーパーマン』を観たときと同じく、そんなことを思いました。

アメリカのスーパーマンは新聞社で働いているけど、ノルウェーのスーパーマン達は泌尿器科で働いているんだぜェ〜!

※早稲田松竹で1月10日〜1週間、3作品上映しているみたいなので、見逃した方はぜひ……『SEX』にも『DREAMS』にも、赤線を引いて心に留めておきたいような会話が出てきますよ。

2.アンデッド 愛しき者の不在(ノルウェー)

みんな大好き『ぼくのエリ』の原作者、ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィストによる話題のホラーが映画化!と聞いて心待ちにしていた一本です。これ、未邦訳なのですが原作が素晴らしいんです。物語は、亡くなった人々が墓から蘇って家族のもとへ戻っている、謎の現象が町のあちこちで起きている……と不穏な事態から始まります。そう聞くと”ゾンビ”もの?と思いますが、そこはヨン様。実際に目の前に死者が蘇ってきたとして、果たしてそれは死者なのか? ゾンビと断定していいのか? もし彼らが自分たちを攻撃してこないのなら、共存できるのか? するべきなのか? と、従来の”ゾンビ”ものでは思いもつかない問いをビシバシと投げかけてくる。

息子を亡くした若い母親、妻を亡くした夫、伴侶を亡くした高齢女性と3つの家族の物語が交錯し、自分だったらどうするか……と胸を締め付けられる思いがする一方で、事態に面した当事者たちが「えーと、何か食べるのか?」「風呂に入れていいのか?」はたまた病院では「MRIに入れて平気なものか……」とリアルに悩むあたりがとてもヨン様らしくどこか笑いを誘うし、政府や警察など当局が、さほどパニックになるでもないのが北欧らしいといいますか。原作はスウェーデンですが、映画化したのはノルウェーのテア・ビスタンダル監督(ヨン様作品との相性がとてもいいと思います)。舞台はオスロに移り、主演には『わたしは最悪。』のレナーテ・レインスヴェ、そして珍しく、やさぐれていないアンデルシュ・ダニエルセン・リー(『わたしは最悪。』で主役の元彼を演じていた俳優)も出てきます。

じつは数年前、原作(英語版)を注文したところ、母が急逝した翌日に本が届くという、なんともいえない思い出のある物語でもあります。自分だったらどうするかねえ、とりあえず家には迎え入れるよなあ……と本気で考えてしまいましたよ。

3.FLOW(ラトビア)


ラトビア発のアニメ映画が、ゴールデン・グローブ賞&アカデミー賞双方で最優秀アニメ作品に輝く!そんな快挙を果たしたのが、ギンツ・ジルバロディス監督の『FLOW』です。人類が絶滅したと思われる世界で、洪水にみまわれた黒猫と仲間たちが船にのり、流されながら生き延びていく物語。

擬人化系ではないので台詞は一切ナシ。擬人化していないのがいい、いやいや実際の動物はあんなではない……といった感想が交わされていましたが、擬人化しないよう注意深く作られている一方で、物語の要で希望を感じさせる展開(=人間的)が観られる、そのバランスがよかったですね。だって、人間が作ってるんだもんね。

そして映像が心地いい。困難な状況ではあるものの、動物たちは人間のように絶望したりしないし、猫はかわいいし、犬はあほだし、鳥は崇高であり、猿には困ったもので、人類もその一員になれたらいいのにね……(生き延びたいという意味ではなく、ああいう風に生きられたらいいのにね)と思ったのでした。

SNSでは、受賞から遡り、アカデミーのノミネートが発表される瞬間に愛犬と一緒に観ていた監督の姿も話題になってましたが、動物と仲良さそうなのが伝わってきて良かった。

4.メン・アンド・チキン(デンマーク)

今年11月に60歳を迎えられた北欧の至宝、北欧のセクシー、マッツ・ミケルセン。マッツファンひしめく日本では全国でマッツ祭りが開催され、アナス・トマス・イェンセン監督の未公開作品をはじめ、レアなマッツが揃って公開されました。いや、めでたい。信心深すぎて常軌を逸している神父とか、店を繁盛させるため”うっかり”人肉を出しちゃう店主だとか、人間のタブーに挑戦するのがお約束なイェンセン監督作品のなかでも、飛び抜けたイカレっぷりと聞いていた本作を、ついに観ることができました。今回マッツが演じるのは、すぐ自慰行為にふける暴力的で短絡的な兄。なんだそれは。さてどんなタブーに挑戦するのかと思えば……種か。いやいや相変わらず先の読めない展開ですが、衝撃の種明かしだったな……種だけに……。

マッツ史に残るヤバさというか、ヤバ・マッツ・ランキングぶっちぎり1位だった『フレッシュデリ』を凌ぐヤバさでありました(ちなみにヤバ・マッツにランクインしているのは、ほぼイェンセン作品です)。

ほっとくと自慰行為にふけってしまう、単細胞なマッツを見るべく、平日の昼から会場にかなり人が入ってるってすごいなあと、改めてマッツ力を感じました。2015年の作品で、2016年に日本で本作を初公開したトーキョーノーザンライツフェスティバルのみなさんは、感涙ものじゃないだろうか。

私の推し俳優にして、マッツと最多共演回数(たぶん)を誇るニコライ・リー・カースもいい役で出ていましたが(種明かしで笑っちゃった)、本作で唯一のまっとうな人であるマッツの弟役を演じた、デヴィッド・デンシックさんも良かったですねー。デンシックさん、北欧作品で印象を残す役が多いんですよねー。

ちなみにマッツ祭りのパンフレット、各作品ごとに寄稿があったのですが、解説というよりは、ただひたすらにみなさんが「やっぱかっこええ……ああマッツ……」と若干、思考停止気味にマッツ愛を綴られているのも面白かったです。
ハリウッドでもモテモテのマッツですが、この秋、イッキにマッツbyイェンセンを観た方が増えたのは大変うれしい。マッツbyイェンセン、新作も控えているので(デンマーク本国では大ヒット中の模様)楽しみだ!

5.イベリン 彼が生きた証(ノルウェー)

筋ジストロフィーにより25歳の若さで亡くなった青年マッツ。生前、彼が熱中していたオンラインゲームの仲間に向けて両親がその死を告げると、彼を追悼する大量のメッセージが世界中から届く……。難病のため体を動かすこともままならず、友達と自由に遊んだり、恋をすることもなくこの世を去ったと思っていた青年が、ゲームの中ではイベリンの名前で、多くの仲間に慕われる頼もしい人物だったことに気づかされる。そんなドキュメンタリー作品です。
私は自分がゲームをしないので「中毒性があるんじゃないの〜」とか「現実との境目がわからなくなるのでは〜」といった、どこかネガティブなイメージがあったのですが(実際にそういう部分はあるだろうけれども)、こんな世界があるんだなと、もう全編驚きっぱなし、泣きっぱなしでした。
本作、前半はご両親へのインタビューを軸にしているのですが、後半はイベリンが見ていた世界をまさに私たちも体験できる作りになっていて、イベリンが頼もしく愛にあふれた人物で、同時に迷ったり怒ったり人間臭さを感じさせる愛すべき人物だったことを追うことができる。
途中、オンラインゲームの仲間たちへのインタビューもあるのですが、国を軽々と超えてつながっているゲームならではの世界に引き込まれました。

【勝手に総括】
2025年のアカデミー外国映画賞にもノミネートされたマグヌス・フォン・ホーン監督『ガール・ウィズ・ニードル』、アイスランドの俊英ルーナ・ルーナソン監督による『突然、彼がいなくなって』もすごく良かった。とくにルーナソン監督は、前作『スパロウズ』から引きずっていたトラウマを克服できる爽やかな作風でよかった…

ノルウェーのドキュメンタリー『ただ、愛を選ぶこと』も良かったですね。『イベリン』もそうですが、こうした作品が日本にまで届くのは嬉しい。ドキュメンタリーといえば、男女平等ランキングで16年連続1位に輝くアイスランドがどうやってそれをなし得たかを伝える『女性の休日』も大好評上映中。これもおすすめです。

フィンランド映画祭では観た2本どちらも(フィンランド代表に選ばれた作品なんですが)「お酒の飲み過ぎは気をつけましょうね…?」という作品でした。

スウェーデン映画が出てこないけど、最近どうなの? というみなさん。12月に発売された旅とカルチャーの雑誌『TRANSIT』はスウェーデン特集で、映画ページではベルイマンやオストルンドなどの大御所から、昨今の映画事情や注目監督、作品まで紹介していますので、ぜひご覧ください!

『TRANSIT』では「ドラマ」の主要キャラを軸に、配信ドラマや本を紹介するページも担当しています。なかでも『ヤング・ロイヤルズ』と『ラブ・アナーキー』はとくにおすすめ! スウェーデンのいまを観るなら、ドラマがいいかもと思った2本です。

【公開が楽しみな作品】

まずは来年1月公開の『CROSSING 心の交差点』。前作『ダンサー そして私たちは踊った』で祖国ジョージアのダンサーと同性愛を描いたレヴァン・アキン監督が、今回はジョージア〜トルコを舞台にクイアコミュニティを舞台に描いています。ちょっと『コンパートメントNo.6』を彷彿とさせる、他者(それも最初は好ましくない間柄)との関係を通じて自分を発見していく物語。キーパーソンとなる3人の演者がものすごくいい。それから猫もいい。

先日解禁になったばかりの予告で既に震える、クリストファー・ボルグリの新作『The Drama』も楽しみすぎる〜。『ドリーム・シナリオ』でニコラス・ケイジ史上最高傑作を撮ったボルグリ監督、今回はゼンデイヤ☓ロバート・パティンソンというまたしても強すぎ布陣。超話題作となるのは必至ですが、ボルグリ監督の名前、そろそろ覚えてもらえるかな!(アリ・アスター製作とか、A24 製作とばかり紹介されるのでちょっと不憫)。

カンヌで記録的なスタンディングオベーションを受けたというノルウェーのヨアキム・トリアー監督作品『センチメンタル・バリュー』も傑作です。父親がステラン・スカルスガルド!娘は『わたしは最悪。』につづいてレナーテ・レインスヴェ!!この組み合わせだけで卒倒しそうなのに、エル・ファニングも出てるし、もうひとりの娘を演じるインガ・イブスドッティル・リレアルも素晴らしい。作品・監督・俳優陣揃ってゴールデン・グローブやアカデミーにノミネートされているようで、賞レースもがぜん楽しみです。

本作、父親と娘の物語を軸に、スウェーデンとノルウェー、世界とヨーロッパの物語が入れ子のようになっている物語で、北欧に興味のある方はおそらく、より楽しめるはず。


アナス・トマス・イェンセンの新作『Last Viking』公開は、いつでしょうねえ! わたしの推しと推し(マッツとニコ)これでいったい何回目のW主演なのだろうか。マッツ祭りでイェンセン監督の魅力が伝わったいま、日本でもヒットするのでは〜〜してくれ〜〜

【機内で観て、おもしろかった作品】
『Hodejegerne』(ノルウェー)

ノルウェーが誇るミステリ作家、ジョー・ネスボ原作のクライムスリラー。ネスボは食わず嫌いだったのですが、これを観て読んでみたくなりました。背が低いことだけがコンプレックスの有能ヘッドハンターが主役で、対する悪役にはニコライ・コスター・ワルドー。最近すっかり渋みの増したニコライですが、2011年の作品なので若い。若くてキレキレのニコライが演じる悪役、敵にするのは嫌すぎる〜と思って観てたのですが、背が低いのがコンプレックスの主役がぴったりすぎるアクセル・ヘニーがものすごくよい(『SISU』でナチス残党を演じてた)。なんなんだ、あのサスペンスと暴力とエンタメ展開は。ジョー・ネスボ、読もう。

『Armand』(ノルウェー)
息子が学校で友人に性暴力をふるったと呼び出されるシングルマザーを、レナーテ・レインスヴェ(ひっぱりだこである)が演じます。この母親、職業は俳優という設定なんですが、怖い。息子の無実を信じる(もしくは無実ということにさせたい)母親、怖い。学校の先生達の対応が是枝監督の『怪物』っぽくて、感情的になっていく母親もちょっとそれっぽいのですが、安藤サクラと仲間由紀恵と戸田恵梨香と松たか子と尾野真千子の悪女成分を煮詰めたようなレナーテがすごい。映画史上に残る笑い声が収録されています。怖い。監督はハルフダン・ウルマン・トンデル。ベルイマンとリブ・ウルマンの孫なんですね。あーーーーーーおじいちゃんに似ちゃったんだねえ……と思わずにいられない作風。そんなに女性に業を背負わすな! とツッコミたい。ちなみにノルウェーの友人いわく「あれね〜ノルウェーの学校の先生、あるあるなのよ〜」だそうです。ええ、そうなんだ……!怖い。

来年もたくさん、北欧の映画が観たいです。