10/19(土)公開。14年前の映画『アダムズ・アップル』をいま推したい理由

2017年のトーキョーノーザンライツフェスティバルで上映された幻!?の名作『アダムズ・アップル』が、2年越しでついに日本で一般公開されます!ああ、めでたい。映画自体は2005年の製作で、もう14年も前の作品なのです。そうですみなさん、本作では14年前のマッツ・ミケルセンが見られるのです!!いまやハリウッドスターとしての地位も揺るぎないものとなった世界のマッツが、彼が愛する母国デンマークのダークでビターで一筋縄ではいかない物語の中で、活き活きとそしてキュートにイカレポンチなキャラを演じているのです。

今回『アダムズ・アップル』公開にあたり、劇場用パンフレットに寄稿したり、トークイベントをしたりとご縁もあって本作は繰り返し見ているのですが、そう、この作品はですね、1度だけでなく2度以上見るといいと思います。

なんでかというとまずストーリーがぶっ飛びすぎているため、1回めは物語の展開に追いつくのにだいぶ気を取られてしまいます。加えてマッツが短パンで膝小僧を見せたり、「ハロウィンのコスプレか!」とつっこみたくなるような聖職者姿を披露したり、クッキーぱくぱく食べたり、議論ふっかけてきたり、鼻曲げたり、もう魅力全開で迫ってくるので、マッツファンはマッツ消化だけで終わってしまう可能性もあります。

そして2回目を見るとですね、また違って見えてきます。1回目には、「えーーそれ、アリですか!?」と思えていたことが割とすんなりと受け止められたりする。倫理的にこれアリなのか?とがんがん問いかけてくるのが本作のアナス・トマス・イエンセン監督の持ち味なのですが、見るたびにイエンセン節に巻き込まれ、他者への、世の中の不条理なことへの許容力がなんだか広がっていく気がする。

ちなみに本作公開にあたって調べて知ったのですが、どうやらデンマークって刑務所のキャパが狭いらしいんですよ。で、比較的軽罰の人はできるだけ早く退所してもらって教会や公共施設などで更生できるような仕組みを作っていると。以前「ノルウェーの刑務所ってすごくきれいで居心地良さそう!」と話題になったことがありましたが、それもこれも根底に「犯罪を起こしてもできるだけ更生して社会に戻って、そして税金を収めてほしい」という考えがあるからなんですね。人口が少ないがゆえの切実な事情があるわけです。

先週の台風で、避難所でホームレスが拒否されたニュースが注目を集めていますが、イヴァンはもちろんホームレスは受け入れるでしょうね。拒否しようとする人々にはクッキーをほおばりながら議論を挑んでいくことでしょう。現実の世界では、受け入れについて「賛否ある」という言い方をする人もいます。いやそこは受け入れるべきだろう、そこは選別しちゃダメだろう、人権について両論は必要ないだろうって私は思うんですが、暮らしが、生きることが厳しくなってくればこういう問題がますます「賛否両論」されてしまうのかもしれない、そんな危機感はあります。だからこそ、「絶対受け入れてくれる」イヴァンという人物を私は心の中に住まわせておこうと思うのです。14年の時を経て、寛容や許容ということを誰もが本気で考えていかないといけなくなった今の時代に、日本で公開してくれてありがとう。アダムズを配給するために会社まで立ち上げた中の人のみなさん、本当にありがとう。

毒気の強さにやられちゃう人もいそうな本作ではありますが、やっぱり一人でも多くの人に本作は観てほしい。昨今なんでもググってわかった気になれるため、映画や小説もネタバレ解説とかを読んでヨシとする人もいるそうですが、物語を追っただけでは絶対にわからない観た人だけが到達できる境地、観た人だけが得られる「それもまたアリかもしれぬ」という視点。それこそが本作の一番の魅力かしら、と思うのです。ちなみに日本公開にあたって、こんなにどぎつい内容で果たして日本で受け入れられるだろうかと関係者のみなさんはヒヤヒヤだったそうですが、どうやら試写や前売りの反応はとても良いみたいです。うん、やっぱり今こそアダムズの世界が必要とされているのかもしれない。

ちなみに本作はイエンセン監督の3部作を〆る作品なんですが、前作の『ブレイカウェイ』『フレッシュ・デリ』も「あなたの許容力に挑戦!」な愛すべき作品たちですので、ぜひ合わせてどうぞ。
『アダムズ・アップル』公式サイト