12/14(土)公開『キノ・ライカ 小さな町の映画館』ミカ・ラッティ氏インタビュー。「フィンランドのごく普通の町にできた、宝物のような場所」
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カウリスマキがついに地元カルッキラで映画館を作った。その過程を追うドキュメンタリー『キノ・ライカ 小さな町の映画館』が12月14日より公開となりました。
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© 43eParallele
フィンランドを代表する映画監督アキ・カウリスマキの地元であり、映画にもたびたび登場しているカルッキラの町にオープンしたキノ・ライカ。ウーシマー県カルッキラの町のホグフォルス製鉄地区にあり、首都ヘルシンキからバスで1時間ほどで行くこともできます。
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Photo: Tomi Wahlroos
本作上映にあたり、カウリスマキとともにキノ・ライカを共同経営するミカ・ラッティさんに、本作にまつわるエピソードや、カルッキラの町と映画館キノ・ライカについてお話を伺いました。
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-オープンしてから国内外の反応はどうですか? 海外からもカウリスマキファンがやってきますか?
ありがたいことにオープン以来、素晴らしい反応をいただいています。まず地元の人たちが喜んでくれましたね。自分たちの映画館ができた、自分たちの居場所ができた、と。これまではカルッキラの住人たちの親戚が町にやって来ると、私が案内していたのですが、いまは地元の人たちがキノ・ライカの案内役をするようになっています。そうした様子を見るのは素敵なことですね。
「映画館なんて、20年行ってなかってけれど、やっと来れた」と話す人もいました。この言葉にはとても嬉しくなりましたね。
フィンランド各地からも来てくれますし、世界のさまざまな国、とくに日本からも来てくれますよ。カルッキラはアキの作品でもおなじみの場所ですが、キノ・ライカは実際に訪問できるのがいいですよね。
-そういえば映画のなかで話が出ていましたが、ジム・ジャームッシュ氏は来ましたか?
まだいらしていませんが、アキとジャームッシュ氏の間には面白いエピソードがあったんですよ。わたしはキノ・ライカができる前、キノ・イグルーという映画を上映するサークルを運営していて、それでアキと知り合ったのですが、ある時、映写機が壊れて直していたんです。その時にちょうどジャームッシュ氏から電話がきたんです。彼が初めてフィルムではなくデジタルで映画を撮影した直後のことでした。だからアキが電話でジャームッシュ氏のことを「このピクセル道化師(ピクセルクラウン)め!」と呼んでいたんです。アキ流のジョークですけれどね! アキはずっとフィルムで撮っていますから。二人の友情を垣間見ることのできた、いい瞬間でした。
-映画館ができたことによって、町に変化はありましたか?
いちばん良かったのは、カルッキラが再発見されたことでしょうね。こんなところに隠れた宝物のような場所があったんだって。地元の人にとっても自慢の場所となり、自信になったと思います。外の人に「おいでよ」と言える場所になった。
カルッキラは、ごくごく普通のフィンランドらしい町です。それがかえっていいんだと思います。キノ・ライカは自分たちのためにやっていることで、ここには平等でフラットな関係があって、正直な活動ができていると思います。
-本作も当然、上映されたと思います。自分たちの暮らしやコミュニティが映画になるって、どんな感じなんでしょう? 地元の人たちはどんな反応でしたか? ミカさんの感想も聞かせてください。
地元を新しい視点で観ることができました。私もそうです。上映会やイベントをやれば、映画で観て知っていた有名な監督や映画人も来てくれる。それはとても自慢になったと思います。小さな小さな町だけれども、ヘルシンキになんか負けないぞ!って、そんな自信が得られましたね。日本で発売されている名画座手帳の帯にも書かれているようですが、アキは「ヘルシンキはカルッキラの港だ」と言ってるんです。「カルッキラにも港がある、その名はヘルシンキ」ってね。冗談でもあるけど、そのとおりなんですよ。
それからこの映画を見るとわかるのですが、地元の人にとっては、この映画に出てくる人はみんな知った顔ばかりなんです。あ、あの人も出てる、知ってるって。それはやっぱり大きな楽しみですね。
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© 43eParallele 作中には『枯れ葉』で強烈な印象を残した姉妹デュオ、マウステテュトットの姿も。
-先ほどフラットな関係とお話が出ましたが、映画好きのコミュニティはときに閉鎖的にもなりますよね。キノ・ライカを中心としたコミュニティは、どんな雰囲気なんでしょうか。
おっしゃるとおり、ここはとてもフラットです。地元でつながり、地に足がついたコミュニティです。意識が高いとか、そういうことはないですね。カルッキラはアキの作品のロケ地として繰り返し使われてきて、それもあってカルッキラの人はエキストラで出ているし、映画関係の人も暮らしています。一方で工場で働く人もいます。
『浮き雲』のラストシーンで、食堂がオープンしますよね。そこでまず、ごみ収集車の運転手が食べにくる。その後には文化人が訪れてきて、普段は交わらない違う階層の人がそこで一緒に食事をしています。キノ・ライカはまさにそれを実現している場所ですね。キノ・ライカには実際にレストランもありますしね。映画館を通じて、映画という場所を通じて、いろんな人が一緒にいられる、そういう場所です。
-キノ・ライカで、犬も同伴で映画を見ている様子をSNSで拝見しました。犬やほかの動物も同伴OKなんでしょうか。劇場内でのルールはありますか?
SNSで写っていたのは、おそらくラネという名前の犬でしょうね。よくうちに来てくれて、もう20本は見ているんじゃないですかね。劇場でのルールは、とくに決まりはありませんが……吠えてはだめです。これは犬だけでなく人間もですよ! キノ・ライカは「世界でいちばん犬に優しい映画館」を標榜しています。アキが兄のミカ・カウリスマキと開催している『ミッドナイトサン映画祭』のサテライトイベントもここでやっているのですが、その時には別の犬も来ていました。もちろんアキの犬たち、『枯れ葉』に出演していたアルマと、『希望のかなた』に出ていたヴァルプも来たことがありますよ。
じつはいつかドッグフィルムフェスティバルをやるのが夢なんです。その際は、アルマとヴァルプは芸術監督として招致しようと思っていますよ。キノ・ライカの名前も犬からとっています。これは映画にもエピソードが出てきますね。
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Photo: Tomi Wahlroos
上映の冒頭にかかるオープニング動画では、アキの初代の犬ライカの声が入っているんです。その声はおそらく東京でも聴けるかと思いますよ。それからうちで出しているオリジナルビールのロゴにも犬がついていますし、犬向けビールもあるんですよ。テラスにはキノ・ライカのマークが入った水飲み皿も置いています。
-映画館を作るのは大変だったと思います。カウリスマキ監督と濃密な時間を過ごしたと思いますが、印象的なエピソードはありましたか?
やることがとても多くて、小さな問題から大きな問題までいろいろ出てきましたね。例えば椅子。あれはもともとアンドラというアキが運営していた別の映画館で使っていた古いものなんです。壊れていて、今ではもう部品がない。でもアキはそれが使いたくて、だから3Dプリンターで出力して直したんです。そうした細かい問題はいろいろありましたね。
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フィンランドには、ボランティア的な意味合いの「タルコー」という精神があるんです。みんなで集まって、よしやるよ!って。そうしてみなさんが手伝ってくれて、なんとかゴールにたどり着けました。
映画にも出てきますが、こけら落としの作品を何にしようかと考えていて、ユホ・クオスマネンの『コンパートメントNo.6』にしようとなったんです。じゃあ上映権をどうするか? という話になって、アキが「俺が持ってる古いヴォルガ車で支払う」と言い出しました。その車は映画にも出てくるんですが、どう見ても動かないような、ぼろぼろの車がレッカーされていくシーンがあります。あれがアキが持っていたロシアの古い車なんですが「あれを上映権として、おまえにあげるよ」とユホに話して、決まったんです。映画ではユホ監督と話すシーンがあって、車も出てきますから、ぜひよく見てみてください。
-上映する映画はどうやって選んでいるのでしょう? 今後キノ・ライカでやりたい企画はありますか?
キノ・ライカはスクリーンがひとつしかないので、作品基準や企画は幅広くするようにしています。ハリウッド作品からアート、ドキュメンタリー、子ども向けまで色々ですね。映画とコーヒーをセットにした企画をしたり、無声映画の特集もありました。来年は1ヶ月間、アキのセレクトで西部劇特集をやるんです。戦争映画やオートバイ映画特集もありました。2025年は一年を通して、ムーミン特集を企画しています。来年はムーミンの最初の本が出てから80周年の記念イヤーなんです。
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以上、ミカ・ラッティさんとのインタビューは終始、『キノ・ライカ 小さな町の映画館』の本編に流れるような穏やかで楽しいムードで進みました。
最後にムーミンの話が出ましたが、キノ・ライカに集う人はどことなくムーミン谷を思わせるところもありました。芸術家もいれば、労働者もいて、変わり者もいる。みんなそれぞれ自分のペースで暮らしていて、映画を通じてあの場に集っている。カウリスマキ監督といえば、日本でも絶大な人気を誇り、マニアもたくさんいます。本作のなかでも「あの作品の最後に……」と登場する人々が嬉しそうに語るシーンも出てきますし、あの人はあの作品に出てた顔だ、あの場所はあの作品の……と、マニアにとってはカウリスマキワールドにどっぷりと浸れること必至の一本でしょう。
一方でカウリスマキ監督のことや作品をよく知らずに見ても、楽しめるであろう作品です。ちょっとした会話の面白さ、物語が大きく動くわけではないのに、暮らす人々を観ているだけでおもしろい。それはカウリスマキ作品と通じる部分でもあります。映画のなかでもカルッキラの人々が「あれ見た?」「見てない」「すごくいいよー」とやりとりをする場面があったり、当たり前ですが、誰もがカウリスマキや映画の大ファンというわけでもない。一方で「キノ・ライカでもいずれ映画祭をやるかな」「カンヌも過去のものになるね」なんて、アキのような会話がされているのも面白い。とにかく観ていて、朗らかで明るい気分になります。地元にこういう場所があるっていいなあ、映画でつながるっていいなあ、と。
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© 43eParallele
作品中、ピクセル道化師のジャームッシュ監督と語っていた、アメリカの映画批評家エイミー・トービンがキノ・ライカについて「アキが作ったキノ・ライカは、『人が目指す場所』とは違うのよね」と語るところが印象に残りました。さて、ではキノ・ライカとはどんな場所なのか。ぜひ本編を観て感じてほしいです。
それにしても上映権とヴォルガ車のエピソードについては、ラッティさんの解説のおかげでカウリスマキ監督の無茶振りっぷりがよくわかりました。ユホ・クオスマネン監督、どんだけいい人なんでしょうか! 『コンパートメントNo.6』や『オリ・マキの人生で最も幸せな日』で国際的評価も高まるクオスマネン監督のいい人エピソードも、ぜひしかとご覧ください!
『キノ・ライカ 小さな町の映画館』は12/14(土)より渋谷ユーロスペースほか全国順次公開
タイトル:『キノ・ライカ 小さな町の映画館』
監督・脚本・撮影・編集:ヴェリコ・ヴィダク
脚本:エマニュエル・フェルチェ
出演:アキ・カウリスマキ、ミカ・ラッティ、カルッキラの住人たち、ジム・ジャームッシュ、ヘッラ・ユルッポ、マウステテュトット、ヌップ・コイヴ、サイモン・アル・バズーン、ユホ・クオスマネン、エイミー・トービン
2023年/フランス・フィンランド/81分/2.00:1/5.1ch/DCP/フィンランド語、英語、フランス語/原題『CINEMA LAIKA』
配給:ユーロスペース 提供:ユーロスペース、キングレコード
