11/29公開!映画『ストックホルムでワルツを』でのぞく、北欧とジャズの関係

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60年代のジャズとファッション、北欧デザインを背景にスウェーデンの歌手、モニカ・ゼタールンドの劇的な人生を描いた本作品。タイトルにはワルツとありますが、これはジャズのお話です。
ジャズは英語で歌うものと思われていた時代、ジャズの名曲にスウェーデン語の歌詞をつけて大ヒットさせたのがモニカ・ゼタールンド。スウェーデンを代表する歌手となったモニカは、巨匠ビル・エヴァンスと共演した『ワルツ・フォー・デビー』(スウェーデン語の曲名は『モニカのワルツ』)で国際的な名声も獲得します。彼女が成功を手にするまでの人生を追ったこの映画にはエラ・フィッツジェラルドやトミー・フラナガンといったビッグネームも登場。ジャズファンにはたまらない作品となっています。
映画の冒頭、モニカはニューヨークのジャズクラブ『Swing 46』で歌うことになります。Swing 46は、マンハッタンの46丁目に今もあるジャズクラブ。ニューヨークへ行った際には必ず寄る大好きな場所なので思わず興奮しましたが……当時は黒人ミュージシャンへの差別が横行する場所だったのですね。60年代は公民権運動の反動により、黒人差別が悪化した時期。そしてスウェーデン人のモニカは、その状況を理解できません。人種差別と常に闘ってきたニューヨークのジャズシーンと、純粋に無邪気に黒人ジャズへの憧れを見せるスウェーデン人のモニカ。この対比もまた面白いのです。
『Swing 46』でのライブ後に憧れの歌手、エラ・フィッツジェラルドに歌を聴いてもらおうとモニカが選んだ曲が『Do you know what it means to miss New Orleans』。そう、ジャズファンの方ならピンとくるでしょう。この曲はジャズ発祥の地ニューオリンズへの郷愁を歌った曲で、黒人にとっては魂の曲ともいえるもの。モニカはよりによってこの曲を選んでしまう……。人種間の微妙な問題に無頓着ともいえるモニカの姿を見ていたら、そういえば北欧ってチョコレートやリコリスなどの黒いお菓子に黒人(もっといえば土人的)イラストをよく使っているなあ…と思い出しました。あれは差別というよりは、人種問題が身近でないがゆえの無神経なのかなあ、と思うのですが。
モニカと人気を二分した大物歌手、アリス・バブスのプロデューサーによると「当時はビリー・ホリデイのような黒人歌手こそがジャズだと思われていた」そうで、白人である彼女達の音楽はジャズと認めないファンも多かったのだとか。モニカ自身、エラ・フィッツジェラルドやレイ・チャールズなど黒人ミュージシャンに憧れていました。でもモニカはその壁を乗り越え、スウェーデン語でジャズを歌うことへ辿り着くのです。
英語じゃなくてもラップはできるのか?という論争がつい最近日本でもありましたが、ジャズを母国語で歌うというのは当時のファンにとっては「ありえない」ことだったのでしょう。その試みがいかに画期的であったか、そしてそれが大成功であったことをこの映画で観客も体感することができます。当代きってのスウェーデンの人気詩人、ペッペ・ウォルゲシュが書いた歌詞により、ナット・キング・コールの歌声で有名な『歩いて帰ろう』はストックホルム讃歌に、ビリー・ホリデイの名演で知られる恋の歌『月光のいたずら』はコミカルでちょっと自虐的な曲となります。『テイクファイブ』も『ワルツ・フォー・デビー』もスウェーデン語の歌詞をのせてモニカが歌うとまったく異なる魅力を放つのです。女優のような美貌の大スター、モニカ・ゼタールンドがじつは苦労人であったこと、クールな見た目とは裏腹に情熱的で、コンプレックスを抱え不器用な面があったことも丁寧に描かれ、親近感をも感じさせるチャーミングなモニカとその歌声に誰もが魅了されることでしょう。
2013年に製作された本作はスウェーデンのアカデミー賞といわれる『ゴールデン・ビートル』賞で最多11部門ノミネート、4部門受賞の快挙をなしとげました。主役を演じるのはシンガーソングライターのエッダ・マグナソン。モニカに劣らない華やかさと美声で観客を魅了し、日本のブルーノートでの公演も決定しています。劇中歌がすべて入っているというサウンドトラックも楽しみです。(ちなみにモニカ本人の歌声も素晴らしいのでおすすめです!)
いま見ても心惹かれるファッションや、北欧デザイン黄金期のインテリアと見所がありすぎる本作ですが、モニカに思いを寄せるベーシストの彼がまた素敵。とくに感情的なモニカへの対応がぐっときて……やはり「ベーシストはいい男揃い」説は正しいですね!
じつは『北欧レトロをめぐる21のストーリー』の執筆中にスウェーデンのレトロ好きに教えてもらったのが、この映画。この本では、今も愛されるスウェーデンの往年の歌手や女優も紹介しています。文中に登場したプロデューサーへのインタビューも読み応えあるので、ちょっとレトロな北欧ジャズが気になった方はぜひあわせてご一読くださいませ!
『ストックホルムでワルツを』オフィシャルサイト
11月29日より全国順次公開

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60年代を代表するデザイン、通称コブラと呼ばれるエリコフォンの電話機が!モニカのファッションも見所のひとつ。
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ベーシストの彼と…♡葛藤と挫折を経て、モニカがついにスウェーデン語でジャズを歌うシーンは鳥肌ものです。
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ストックホルムのジャズクラブや美しい街並がのぞけるのも楽しい。ちなみにフライヤーなどメインで使われている写真(ページトップ参照)でモニカがいるのは、50年代から今も変わらず営業をつづける老舗カフェ。
画像は『ストックホルムでワルツを』より © StellaNova Filmproduktion AB, AB Svensk Filmindustri, Film i Vast, Sveriges Television AB, Eyeworks Fine & Mellow ApS. All rights reserved.