3/9(土)公開!男女平等の国が描く、フェミニズムを超えた女の映画『たちあがる女』


アイスランドから、またすごい映画が届きました!デビュー作『馬々と人間たち』で観る人の度肝を抜きまくったベネディクト・エルリングソン監督の最新作『たちあがる女』は、2018年もっとも優れた北欧映画に贈られるノルディック映画賞に輝き、カンヌでは劇作家作曲家協会賞を受賞、そしてアカデミー賞アイスランド代表作品にも選ばれている話題作。さらには本作に惚れ込んだジョディ・フォスターが自ら監督・主役を務めてのハリウッド・リメイクが決まったという話題付き!
本作の英語タイトルは『woman at war』。原題『Kona fer í stríð』もグーグル翻訳によると、「戦いに行く女」という意味のよう。そのタイトルから最初は、フェミニズム的なテーマを描く映画なのかと思いましたが、ぜんぜん違いました。この映画、主人公も脇役も男女が逆でも成立する。女性だから、という切り口がまったく出てこない。物語の重要な鍵となる「母になる」要素ですら、女じゃなくても成立する。そうか、男女平等の国はもはや、そこのところは描かなくていいのか!と当初の予想を爽やかに裏切られたことには感動すらありました。これがガラスの天井を突き破った先に見える景色なのか、と。
ではハットラが戦っているものは何か?おそらく観客のほとんどは画面を駆け抜けるハットラに「行けー!」「逃げきれー!」とエールを送ることでしょう。でも中盤からハッと気づく。彼女をあそこまで追い込んでいるものとは、彼女が弓矢を持ち立ち向かっている敵とは、私達が当たり前に享受している生活なのだと。物語は最後まで私たちに問いかけます。では、ハットラの目指す理想の社会とは?それは本当に正しいの?と。フェミニズムを超えた男女平等の国が直面する問題、私達がいま向き合わなければならないこととは何か?と。
着々と計画を進めるハットラに、私は実写版ゴルゴ13か!いや『96時間』のリアム・ニーソン級の任務遂行力〜〜!!インディ・ジョーンズ級の突破感〜!マスターキートン並の安定感〜!と興奮して観ていたのですが、「風の谷のナウシカ」が歳をとったらこんな感じ、と言った方がいるそうで、うまいこというな〜と思いました。そして思えば、現実世界にも出現しましたね、ハットラが。いま世界中の注目を集めるスウェーデン出身の16歳の環境活動家、グレータ・トゥーンベリ。この現実世界とのシンクロ感。ゴルゴとか言ってる場合じゃなかった。これは「お話の世界」の出来事じゃなかった。
観終えてから、ジョディ・フォスターのリメイク版の話を耳にして「ぴったりすぎ!」とまた感嘆したものですが、この面白さ、アイスランド以外を舞台にしても成立するのだろうか。孤軍奮闘するハットラに味方し、彼女を守ってくれるのはアイスランドならではの究極の自然。この映画、「女ならでは」は出てきませんが「アイスランドならでは」は随所に出てきます。ストーリーの要所要所で、反則みたいな大自然と小国ならではのあるあるエピソードが出てきて、アイスランドを知っている方なら、その「アイスランドあるある」の見事な活かし方に手をたたきたくなることでしょう。いや〜それにしてもこんなにいい仕事をするひつじは、見たことがない。ひつじ、最高。「人間は、ひつじによって生かされてるんだな」とアイスランド人なら誰でも知っている真理がわかった気がしましたよ。
そしてテーマは現実的ながら、独特のファンタジックな世界観を際立たせているのが音楽の使い方。どこかおとぎ話のような愛らしさがありつつも、それでもスケールの大きなストーリー、そしてこの音楽の使い方に私はエミール・クストリッツァを思い出しましたね!カンヌの最高賞パルム・ドールを2度受賞、そして世界三大映画祭すべてで受賞している天才監督。鬼才。映画の申し子、クストリッツァ。本作のエルリングソン監督は他にもカウリスマキ!ロイ・アンダーソン!と、要するに「最高である」と稀代の才能と並べて称賛されておりますが、おそらく10年、20年後には新しい才能が「エルリングソン的」と評される、そんなスケールの監督ではないかと思います。それにしても心にマイバンドがいるっていいですね。それもピアノ、ドラム、スーザホーン(大きな聴診器みたいな楽器)の3ピースというブラスバンドや古いジャズ好きにはたまらないバンド構成…!私も欲しい!
ハットラのように武器をもち、作戦をたて、敵と対峙し、ときに命や身の危険にさらされる。そんな戦いは私達にはなかなかできない。でもまずはたちあがるだけでもいいんじゃないか。戦い方がわからなくても、まずは座ってるだけの生活からたちあがってみようと。私は邦題から勝手にそんなメッセージを受け取りました。この邦題、めちゃくちゃいいと思います。
そして朝ドラ『まんぷく』クラスタのみなさん。本作を観たらきっとこう思うでしょう「まんぺいさんだ〜〜!それ、まんぺいさん状態〜〜!!」と。『馬々と人間たち』でもいい味を出していたあの彼には、助演まんぺい賞をあげたいです。
さて本作のチラシ&パンフレットにコメント寄稿をしたのですが……

ジョディ・フォスターと名前が並んでる〜〜〜!!
このチラシ、家宝にしたいと思います。配給のトランスフォーマーさん、ありがとう。

さてここからは映画に連動して行われたイベントについて。公開に先駆けて、アイスランド大使館では試写会と合わせてユニークな催しがありました。エーリン・フリーゲンリング駐日アイスランド大使のご挨拶で始まり、試写後には、バンドとともに本作のアクセントとなっている合唱つながりで、合唱団「あされん」のみなさんによるアイスランド国家やアイスランドの歌が披露されました。

いつもおしゃれなエーリン大使。北欧ロイヤルファミリーのおしゃれ番長はデンマークのメアリー妃ですが、駐日北欧大使館のおしゃれ番長はエーリン大使です。

合唱団の「あされん」さん。それぞれ仕事をしながら、その名のとおり、朝練で合唱を続けているグループ。公開初日にはYEBISU GARDEN CINEMAで合唱を披露。youtubeにも動画があるそうです。
さらにアイスランドを代表する乳製品、スキールの試食会へ。スキールはヨーグルトのような食品なのですが、より濃厚な食感。旨味がぎゅっとつまった味わいと食感ながら低脂肪で口当たりさっぱり、というなんとも不思議な乳製品なんです。乳製品大国の北欧ではこれまでさまざまな味を試してきましたがアイスランドのスキールはとくに推したい味。アイスランドのスーパーマーケットにはさまざまな味のスキールが並んでいて、レイキャヴィク滞在時には毎朝食べてましたね。アイスランドでは1000年以上前から食べられている伝統食で昨今はスーパーフードとしても注目されているスキール。日本上陸の話もあったのですが実際にはまだ流通していません、が……大分の久住高原にある久住高原菓房いずみやさんが、なんと「たちあがる女」公開にあわせてスキールを発売するとのこと。


いずみやの店主、佐藤さんはアイスクリームを作る過程で出る低脂肪乳をなんとか再利用できないかと考え、そこから生まれたのが『KUJU’S SKYR』。試行錯誤の末にたどり着いたという味は、アイスランド大使から本場の味とお墨付きをいただいたそう。確かに本場の味だ!おいしかった!一瞬、「アイスランド大使館に内田裕也がいる…!」と思ってしまったのですが、スキール作りについてお話する佐藤さんはとてもキュートな方でした。もともとチーズ作りが趣味で、アイスランドに行ったこともスキールを食べたこともないのに作り始めちゃったというエピソードも面白いし、それでアイスランド人も驚くクオリティに仕上げてしまう職人魂もすごい(まんぺいさんか?)。スキールと一緒に出されていたベリーやかぼすのジャムがまたおいしかったんですよね〜。聞けば久住高原はアイスランドと自然の姿が似ているそうな。日本のアイスランドへ、いつか行ってみたいなあ、なんて思う夜でした。くずみさんのオンラインショップではスキールも注文可能。「たちあがる女」とともにぜひ日本発のアイスランド食、スキールも試してみてくださいね!
3月9日より恵比寿YEBISU GARDEN CINEMAにて公開 『たちあがる女』公式サイト

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