2024年の北欧映画ベスト5

今年は北欧映画を結構、観ましたよ〜。日本公開作品が増え、配信が増え、映画祭もあり、機内でも観た! さあ、では行ってみましょう、今年の北欧映画ベスト5です!

1.ヒューマンポジション(ノルウェー)

今年いちばんの作品です。出会えて本当によかった、と心から思った一本。ノルウェーのフィヨルドをのぞむ港町オーレスンでパートナーと暮らす主人公の暮らしが静かに描かれます。猫がかわいい。新聞社に勤める主人公は取材の途中で、この地にいた難民のことを知り、彼が強制送還されていたことを知ります。自分に何かできることはないかと模索するうちに、自分も取り戻す……そんなお話なのですが、猫がかわいい。印象に残っているのは歯磨きのシーン。主人公とパートナーで歯の磨き方が違うんです。北欧の人って歯を磨いたあとに口をすすがないんですよ!口をすすぐ人と、すすがない人。そういう細かい描写から、ひとりひとりがもつ背景に少しだけ思いを馳せることができる。そんな視点が心地いい。そして猫がかわいい。知られざるノルウェー椅子のデザインも堪能できるし、とにかく猫がかわいいです。

2.胸騒ぎ(デンマーク)


また北欧の不条理ホラーかな、そういうの、もういいかなとスルーしてたんですが、マカヴォイさん主演でリメイクするというので、北欧映画がハリウッドでリメイクされるとどうなるかウォッチャーとしては観なければならなくなりました。公開当時は胸糞・ヒドイ・北欧映画やっぱりヤベえと言われまくってましたが、これめちゃくちゃ教訓的なお話ではないですか。いい意味で裏切られました。種明かしと結末がお見事なので、胸糞とはいえ思いのほか爽やかな後味でした。喪黒福造的なお話ではなく、ほとんどグリム童話ですよね、これ。「ほんとうは怖いグリム童話」ってありましたけれど、まさにそれです。子どもの教育に悪いからと、人間の怖い部分を見せないように、自分も見ないようにしていると、こういう目にあうかもしれません。すべり台のシーンを思い出すと、いまもみぞおちあたりがきゅーっとします。絶対に、どいてはダメなすべり台。すべり台を見るたびに「次はお前の番だぁ……」という気になります。しかし大人たちよ、なんでその状況で抵抗しないんだと思わずにはいられませんが、暴力の前で思考停止するって、こういうことなのかなあと思うと肝が冷えます。マカヴォイ版も観ましたが、みんながよく知ってるグリム童話っぽくなってました。それでは教訓にならぬ!

3.エストニアの聖なるカンフーマスター(エストニア)


監督の前作『ノベンバー』を観て、「一生、この監督にはついていくぞ!」と思っていたのに、ええっと、ついてけるかなあ……と観ている間に何度も不安に思った本作。でもやっぱり観終えてから、じわじわ〜と甦ってくるんですよね。一体わたしは何を見ていたのかと。どこへ連れて行かれてたのかと。また連れて行かれたいぞと。エストニアとロシア正教の関係とか、歴史がわからないと読み取れないことも多いのだけど(いろいろ読み取れると、むちゃくちゃおもしろいんだと思う。本国エストニアでは特大ヒットらしい)、通りすがりのKGBと一騎打ち!(しかもやたら映像が美しい)なんていうシーンが出てくるので、唯一無二の映像体験といえましょう。あと実在のモデルがいる、しかも実在の方がやばいらしいというのもすごい。世界は広い。

4.ワイルドサイド(デンマーク)

1998年の作品です。マッツ・ミケルセンとニコライ・コスター=ワルドーというデンマークを代表するセクシーが共演する幻の作品。まさかの配信で観られるようになりました。主役のニコライ・コスター=ワルドーがまあ、格好いい。コスター=ワルドーさんといえば、ゲーム・オブ・スローンズのジェイミー・ラニスターでもイケメンの正しい使い方を存分に見せてくれましたが、本作の若き日のコスター=ワルドーさん、もうかっこよすぎて物語がぜんぜん頭に入ってこない。そんな経験をしたのは初めてです。しかも私、コスター=ワルドーさんのファンでもないのに。そしてもはや説明の必要なしのマッツですが、本作のマッツはダサマッツかと思いきや(ダサマッツ・ダメマッツ・イケマッツ・コワマッツなどがあります)普通にかっこいいマッツでした。かつてワイルドでやんちゃで兄弟のようにつるんでいた二人。いまではすっかり堅気になったマッツ兄のところへ、訳ありコスター=ワルドーさんが訪ねてきて、昔みたいにバカやろうよ〜ねえアニキーと誘うも邪険にされ、気を引きたいあまりトラブルを起こす……。よくある北欧ワル映画のように悲惨な結末へまっしぐらというわけではなく思いのほか優しい着地をします。そして映像は出血大サービスで、ブレーキがちゃんときかない車を止めるために、毎回、車から降りて木の切れ端みたいなのをタイヤに差し込むマッツとか、荷物ぶんなげられて置いてけぼりにされるコスター=ワルドーさんとか、周りが全員ロパペイサを着てるアイスランドのカフェでもじもじもだもだ(by『海に眠るダイヤモンド』のゆりこ)やってる二人、アイスランドの海に飛び込んで小学校5年生並にじゃれる二人とか、絵面が素敵すぎました。

5.レニングラード・カウボーイズとキノライカとバラライカ(フィンランド)


今年はレニングラード・カウボーイズ元年でした。カウリスマキ作品はどうしたって面白く、どの作品も甲乙つけがたいのですが、レニグラってこんなにおもしろかったんですね。「エルビスに負けないくらい」の長すぎるリーゼント、旧ソ連の軍服、めっちゃフィンランド語話してるのにソ連出身設定と、いちいち笑えるし、本当にアメリカ横断してるのすごいし、終始ドリフのコントみたいなくせに行く先々で胸打つプロレタリアート音楽交流をしているのもすごい。自由の女神が映っているのに、どうしてもフィンランドに見えてしまうシーン、聴いたことあるはずなのに、カウリスマキ作品で聴くと別物の味わいが滲み出てくるロックンロールやブルース。カウリスマキでしか味わえないアメリカとかロックンロールがあるのだな。ニューオリンズやメキシコのシーンは、一体どうやってあんな演奏を撮ったんだろうな。レニグラと旧ソ連のオーケストラがヘルシンキの大聖堂前で共演したライブ『トータル・バラライカ・ショー』ではついにロックとオーケストラ、かつての宗主国と属国、東と西、支配層とプロレタリアート、バレエとコサックとロックンロールとブルースが共演し、ウィー・アー・ザ・ワールドどころではないスペクタクルが広がっていた。今年でアマプラ見放題が終わるため、わたしはカウリスマキほぼコンプリート・ブルーレイを買ってしまいました。もう紅白の代わりに年末は毎年『トータル・バラライカ・ショー』を観るのがいいのではないかと思っています(そしてクリスマス・イブには『マッチ工場の少女』を観るのだ)。レニグラやバラライカ・ショーの監督であり、映画に愛された男カウリスマキが映画館を作るまでのドキュメンタリー『キノライカ 小さな町の映画館』を見て、映画の力を思い知らされるわけです。

次点
ニコラス・ケイジ史上最高傑作といわれる『ドリーム・シナリオ』も面白かったし(ボルグリ監督との相性がとてもいいのだと思う)、デンマークの宣教師がアイスランドへ苦難の旅に出る『GODLAND』も良かった。EUフィルムデーズでやっていた現スウェーデン国王に取材しちゃったドキュメンタリー『ザ・キング』もドキドキしました(ちょっとアンナ・オデルっぽかった)。母がサーミのルーツをもつ監督による『イェヴィダ』@フィンランド映画祭も感動的だったし、『ヘヴィ・トリップⅡ』は相変わらず、すみずみまで行き届いたテンポのいいバカで面白かったです(まだまだ上映中!)。

【来年のおすすめ】

1月に公開の『アンデッド/愛しき者の不在』『モルグ/屍体消失』は、来年のベスト5入必至の面白さ。とくに『ぼくのエリ』のヨン・アイヴィデ・リンドクヴィスト原作の『アンデッド』は生涯ベストに入れたいくらいの好みの作品でありました。ヨン様の世界観を忠実に映像化してくれてありがとう。『モルグ/屍体消失』は1994年製作、幻の北欧ホラーで、コスター=ワルドーさんのデビュー作です。手に汗握るサスペンスで、後のデンマーク映画を背負って立つ人がいっぱい出てます。どちらも1/17〜公開。どちらも死者のお話ですが『アンデッド』はそんなに怖くない。『モルグ』はめちゃくちゃ怖い。

1/24からはアイスランドの名匠バルタザール・コルマウクル監督による『TOUCH/タッチ』が公開。ベストセラー小説の映画化なのですが、アイスランド男性と日本女性の50年前の恋が物語の軸。演じるのはKōkiさん、しかも父親が本木・もっくん・雅弘と豪華。二人が出会った戦後ロンドンの日本の居酒屋が主な舞台となりますが、この美術セットがすばらしい。ダーグル・カウリといい、アイスランド映画って美術がいいんですよね。アイスランド要素は控えめかと思いきや、冒頭のめちゃくちゃアイスランド的ショットで心をつかみ物語へとひきずりこんでしまうのは、さすがコルマウクル監督といったところ。

サンダンスのドキュメンタリー部門でグランプリを受賞したノルウェーの『変わりゆく家族の肖像』も来年公開が決まっていますが、ひとつの家族にこんなドラマチックなことが起こるのかと思う作品。デンマークの推せる監督ニコライ・アーセルとマッツ・ミケルセンの新作『愛を耕すひと』も楽しみです。

【日本公開してほしい作品】

今年も機内でせっせと北欧映画を観ました。まさかの『エヴァとステファンとすてきな家族』の続編『Tillsammans 99』をやってたのには泣きました。前作でスウェーデンにおける70年代のヒッピーコミューンを辛辣に描いたルーカス・ムーディソン監督、24年後のヒッピーの老後を描く。これが辛辣でないわけがない。ビター・オブ・ザ・ビター。苦くて辛くて機内でヒーヒー言いながら観てましたが、この思いを誰と共有したらいいのか。トーキョーノーザンライツがあったなら、絶対に上映してくれたことでしょう。前作から24年。2000年に製作された1975年舞台の作品の続編が、1999年を舞台にして2023年に製作されるとは頭がこんがらがりそうですが、ほぼ前作と同キャストで、ほぼ全員前作の時のアクの強さをもてあましたまま(人によってはさらにこじらせて)出てきます。ああ人生って苦い。エヴァとステファンは来ませんが、その穴を埋めるのがクセ強め、スウェーデンのムロツヨシみたいな俳優デヴィッド・デンシックです。「なんでおまえがここに」とみんなから見られるデンシックさん。居場所のないデンシックさん、最高。ああ、この思い誰と共有したらいいのか。トーキョーノーザンライツ、プリーズカムバック!!!

もうひとつデンマーク映画『ROM』も良かったですねえ。トリアー作品でおなじみ、デンマークの名優ボディル・ヨルゲンセン主演作。若い頃イタリア留学をして絵の道に進みたかったデンマークの老婦人が、夫と一緒にローマを旅して、かつての恋人に出会ってしまう。いい人だけど真面目すぎて旅先でも融通がきかないデンマーク人の夫、フリーダムで訳ありなスウェーデン人の元恋人。若い頃から海外での暮らしを楽しみ、アモーレの国イタリアが好きすぎる妻、せっかくの海外旅行でもつまんないことばっか言ってる夫(でもいい人)、ちょっと日本の夫婦のようでもある。ボディルがとにかく素敵で、思わずトリアーの『イディオッツ』を見直してしまいました。ほんと素晴らしい(ちょっと八千草薫みがある)。

【今年、感激したこと】
最後に、今年いちばんの衝撃といえば、朝、目が覚めたらラース・フォン・トリアーからビデオメッセージが届いていたことです。……こう書くと、不穏な北欧映画のはじまりみたいですが、そうではありません。昨年開催されたトリアーのレトロスペクティブ&新作となる『キングダムⅢ』上映に際して、劇場板パンフレットに『キングダム』シリーズについて寄稿したんです。そのパンフレットを部屋に飾っていたところ、デンマークから遊びに来た友人が見つけ、彼がトリアーと知りあいだったために本人の知るところとなった……という奇跡が起きました。映画パンフって日本独特のカルチャーなので、トリアー氏もいたく喜んでいたそうで。映画界のビッグネームからメッセージが届いたのにもびっくりですが、思ったよりもずっと元気そうで「ユリコ、よい人生をね。あなたの友人ラースより」なんて優しい言葉で締めくくられていて、泣いてしまった。「人生なにが起こるかわからないものですねえ……」というセリフはこういう時のためにあるのだな。

もうひとつ。今年、スウェーデン来訪した際のこと。いつもお会いしているヘレンハルメ美穂さん(小説『ミレニアム』シリーズの翻訳者)と一緒に、もう一人の北欧語翻訳者である中村冬美さんにお会いしたんですね。中村さんは日本でも話題になった『あるノルウェーの大工の日記』などの翻訳をされている方ですが、なんとスウェーデン&デンマーク合作で話題をさらった大ヒット北欧ミステリドラマ『ブリッジ』の翻訳を担当されたとのこと。『ミレニアム』のリスベット・ランデルと『ブリッジ』のサーガ・ノレーンはいつも心に住まわせておきたい北欧ドラマの2大ヒロイン。北欧ミステリの金字塔ともいえる2つの作品の翻訳者とともに過ごし「サーガってこういうとこありますよね〜」などマニア話ができて、感動、興奮したのでした。

来年も新春から北欧映画にどっぷり浸っていきたいと思います!それではみなさま、良いお年を!