2023年の北欧映画ベスト5

2023年の北欧映画ベスト5を選びました!今年はあまりたくさん映画を観られなかったのですが、でもベスト5選出には悩むくらいには観て、良い作品に出会えてよかった。今年の5本はフィンランドが2本、デンマーク、ノルウェー、スウェーデンが1本ずつ。ではいってみましょう!

1.『枯れ葉』(フィンランド)

帰ってきたカウリスマキ。それも、以前よりもさらに優しさを増して。相変わらずの「一体全体、いつの時代のお話ですか?」と思ってしまう画面のなかのカウリスマキ・ユニヴァース(監督は50〜70年代がお好き)ですが、劇中ラジオから流れるのはウクライナ情勢に関するニュース。日々ガザのニュースが流れるいま、「愛を信じる」という直球すぎるメッセージが染みます。世界的に大ヒットしている模様ですが、日本ではクリスマス前の公開というのもベストなタイミングだったのでは。これは心温まります。

2.『4人の小さな大人たち』(フィンランド)

フィンランド映画祭で観賞。『枯れ葉』のアルマ・ポウスティ主演です。アルマ扮する優秀な政治家のユーリアは、牧師である夫のヘンリクが浮気していることに気づいてショックを受けるが、思いきってポリアモリー(複数と恋愛関係を結ぶこと)を提案する……というお話。いや〜さすがフィンランド、恋愛観や結婚観が進んでるのね……と見ていたら、いやいや、いくらフィンランドでも、さすがにそこまで進んでないっしょ!?と口あんぐりの展開へ。しかし、いちいちうなずきたくなる会話劇と、見事な落とし前の付け方に「こういう世界もありかもしれないし、あってほしい」と思わされます(もちろんそれも簡単ではない道だけども)。枯れ葉のアルマもすごいけど、本作のアルマもすごかった…北欧の優れた映画を選ぶヨーテボリ国際映画祭で、最優秀俳優賞を獲得しています。『枯れ葉』のヒットでぜひ、日本でも公開してほしい。

3.『キングダム エクソダス〈脱出〉』(デンマーク)

映画界の悪童ラース・フォン・トリアーが自国デンマークの人々にその名を知らしめた1990年代の問題作、まさかの続編。もともとデンマーク国営放送で放映され、最高視聴率が50%を記録した快作で(デンマークは番組数が少ないとはいえ、すごい数字だ)、主演俳優たちの相次ぐ死去により結末を迎えていなかったドラマシリーズ。それが、25年の時を経て戻ってきた!しかも主演の医師、ヘルマー・ジュニアを演じるのはスウェーデンの至宝ミカエル・パーシュブラント(スウェーデンのダニエル・クレイグみたいなセクシーでかわいくて怖い役もできる俳優だ!)、対するデンマークの医局長はラース・ミケルセン(マッツのお兄ちゃんで、本国ではマッツくらい人気あるぞ、たぶん!!)、脇を固めるのはニコライ・リー・コス(特捜部Qの初代カール・マーク。わたしの最推しだ!)、ツヴァ・ノボトニー(ブリット=マリで監督もしてるぞ!)、さらにアレクサンダー・スカルスガルド(説明必要ないよね!)……とスウェーデンとデンマークを代表する俳優陣が勢ぞろい。は〜前作から比べて、なんとはるか遠くまで来たものか、トリアー叔父よ。

スウェーデンvsデンマークという彼の国の人たちが大好きなテーマが軸で、前作よりもご当地ネタが増えていて、やっぱりトリアーってデンマークが好きなんだなあと思う。この人は自分(の中にある悪やいろいろ)を描くのが好きな人だと思うので、デンマークネタがしっくりくるのはさもありなん。そして満身創痍の彼をもう一度制作の現場に連れ戻したのはデンマークであり北欧の俳優、制作陣、観客だったというのはやっぱり胸が熱くなる。それにしてもビヨークの件で、もう観ることないだろうと思っていたのだけれど観てしまった。本作ではそれもネタにしていて、本当に反省してない。だってわたしは自分以外にはなれない宣言だということは、よくわかりました。そこんとこは全然ほめてません。しかしトリアーってコメディが上手いよね。夏の公開時にトリアーのレトロスペクティブで上映されていたコメディ『ボス・オブ・オールイット』もよかった。

4.『シック・オブ・マイセルフ』(ノルウェー)

北欧映画はよく「毒がきいてる」と評されるのですが、本作は触るなキケン!の猛毒系。物語も毒の話で、世間の関心を得たいがために、体にとって明らかに毒になる薬を摂取しつづける女性が主人公。昨年公開された『わたしは、最悪。』ともかぶる作風で、物語はえぐいのだけれど、それを爽やかに見せてしまうオスロの夏の美しさよ。もうどんだけヘヴィーなテーマをオスロの夏が爽やかに見せられるか実験したらいいのでは。それはさておき加速する承認欲求、現代社会への問題提起……というよりは、人間の壊れた部分をいかにホラー的にユーモアをこめて描くか、たぶんそこにしか興味がないのではないか、そんな監督の視線が恐ろしい作品です。次回作はニコラス・ケイジ主演で話題をさらうクリストファー・ボルグリ監督、注目しています。

5.『逆転のトライアングル』(スウェーデン)

スウェーデンの鬼才リューベン・オストルンドがカンヌ2冠を成し遂げた話題作。ロシアのオリガルヒを思わせる大金持ちをはじめ世界の大富豪を乗せた豪華客船が難破。行き着いた無人島で、生存のために必要な技量を持っていたのは、船内では最下層として扱われていたトイレ清掃人の女性だった……という下剋上物語。ストーリーテラー的役割を担うファッションモデルのカップルは、女性がめちゃ売れっ子で稼いでいる一方、男性は微妙な立場。そもそもモデルの世界では女性の方が圧倒的に収入が多いなど、ここでもパワーバランスが逆転している。胸糞キャラクターだったのが、次の場面では同情してしまったり、その逆もありで、共感の持っていきどころに困る作風はやっぱりうまいですねー。登場人物がかわるがわるシメられていくのを苦笑しながら見ていたら、最終的に観ていた自分もシメられました、というおなじみオストルンドオチが待ってます。

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【その他、気になった映画】

『イノセンツ』(ノルウェー)
まだ幼い子ども達が破壊的な超能力を手にしたら……という大友克洋『童夢』まんまのノルウェー版サイキックホラー。見せ方といい、音楽の使い方といい、映画として最高におもしろく楽しめたのですが、昨今の日本映画にも通じる「問題提起をしているつもりが、結局、差別を助長してませんかね」というモヤモヤ感も抱いてしまったので(モヤモヤについてはこちらに書きました)ベストには入れませんでした。

『AALTO/アアルト』(フィンランド)
北欧デザインが人気とはいえ、フィンランドの建築家を追うドキュメンタリー仕立ての作品がここまでヒットするか!?って、プロモーションにちょこっと関わっておきながら思いました。祝!大ヒット。ガチのアアルト、建築ファンでなくてもなんか語りたくなる作風、それがヒットの要因ではと思っています。アアルトのデザインや建築がまさにそうですものね。最初に試写で観たのが2020年。コロナで上映が繰り返し延期となりついについにの公開で感無量です。祝!大ヒット!!

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【日本公開してほしい作品】
今年、ひさしぶりに北欧へ行きまして、ひさしぶりに機内で「これは日本では公開しなさそうだなー」と思う北欧映画をいろいろ観ておきました。何かの間違いで日本公開してほしい作品。

・Margrete – Queen of the North(デンマーク)
カルマル同盟発足の立役者、マルガレーテ3世の物語。争い合ってた北欧諸国が同盟を結んで統一したわけですが、あれ事実上デンマークが覇権を握ったんですよね……っていう、その立役者の女王をあのトリーヌ・ディルホムが演じます。死んだと思われてたマルガレーテの息子をヤーコブ・たまには幸せにしてあげてほしい・オフテブロさんが演じます。デンマークの地位を揺るぎないものにするために、死んだ息子の代わりに養子をとって継がせたら、そこに死んだと思ってた息子が戻ってきた。母性と女王としての間で悩み苦しむが、そりゃまあね……っていう女王をトリーヌが演じています。マルグレーテにもっとも似合う俳優ではないかトリーヌよ。マルグレーテの側近であり、ご意見番をマイヤさんことソーレン・マリンが演じてるよ!司祭みたいだけど、超あやしいよ!

・Dianas bryllup(ノルウェー)
1981年、イギリスのチャールズ皇太子とダイアナ妃が結婚した年に生まれたダイアナと、やんちゃといえば聞こえはいいが、少々壊れ気味の両親のお話。いい人なんだけど関係を築くのがちょっと雑だったり、親世代には当たり前だったミソジニー、同性愛やマイノリティへの差別など、親しい人がもつ問題や差別を娘世代の視線から描いた作品。爽やかなんだけど、結構身につまされる問題をさらっと描いている良作で、困ったお父ちゃんを、あの『特捜部Q』シリーズ随一の恐いヒトを演じたポール・スヴェーレ・ハーゲンが演じてます。仲はいいけど元は他人な父と母が、ふとした瞬間にお互いの育った環境に気づくとか、結構ドキッとさせられるシーンがある。

・Fædre & mødre(デンマーク)
学校にうまく馴染めない子ども達を集めるニュースクールで、親たちも一緒にキャンプへ行くことになるけれど、親たちのがよっぽど問題ありでは……というわかりやすいコメディ。薪割りで父親同士でマウントをとりあうなど、北欧あるある?的なネタはおもしろいし、監督がパプリカ・スティーン(『しあわせな孤独』『アダムズ・アップル』)、怪しい学校の校長がラース・ブリッグマン(『ライダース・オブ・ジャスティス』『BORGEN』)、ほかにもデンマークのいい俳優さんを揃えてこのテーマ、もっと面白くできたのではーと、ちょっと惜しい作品ではある。どぎつい笑いのつもりが、差別的では……と思えるシーンもあって、それも含めてデンマーク的といってもいいかも。『BORGEN』のビアギッテの元夫も出てくるよ!

【来年の期待】
来年はひとまずボルグリ監督の次作「Dream Scenario(原題)」(クロックワークスさん配給!)が楽しみです。あとマッツの新作『The Promised Land』(『ロイヤル・アフェア』のニコライ・アーセル監督だよー)も日本公開が決まったみたいだし、スウェーデンのジェームズ・ボンド(とわたしが勝手に言っている)ミカエル・パーシュブラント主演の『Hammarskjöld』(元国連事務総長ダグラス・ハマーショルドの伝記もの)と、ラッセ・ハルストレム監督の『Hilma』(美術史を揺るがす事件として再評価されたスウェーデンの女性画家ヒルマ・アフ・クリントの伝記もの)も誰か配給してください〜〜〜!!

来年もおもしろい北欧映画をご紹介したいと思いまーす! それではみなさま、どうぞ良いお年を!