「子どもは困難を抱えているものです。時には一人で抱えきれないこともある」。 好評上映中『リトル・エッラ』のクリスティアン・ロー監督が伝えたいこと

4月5日より公開となり、「初日満足度ランキング第3位(Filmarks 調べ)」にも輝いて、好調スタートをきったスウェーデン映画『リトル・エッラ』。公開に合わせてノルウェーよりクリスティアン・ロー監督が来日し、東京と大阪ではトークショーも開催。各地で「いい人過ぎる!」と、作品とともに大絶賛されているロー監督に、本作について質問を投げてみました。


写真:カルチュアルライフ提供

インタビューへと入る前に、簡単に『リトル・エッラ』について説明を。主人公はサッカー好きの少女エッラ(原題は『リトル・ズラタンと大好きなおじさん』。ズラタンとは、スウェーデンが誇るサッカー選手ズラタン・イブラヒモビッチのこと)。原作はスウェーデンの児童文学作家ピア・リンデンバウムによる絵本です。 周囲になじめないエッラは、おしゃれでやさしいトミーおじさんが大好き。ある日、トミーの恋人スティーブが現れて、エッラは大好きなおじさんを独り占めするためにスティーブを追い出そうと画策する……そんな物語です。


© 2022 Snowcloud Films AB & Filmbin AS


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-原作が絵本とのことですが、映像化する上でとくにこだわった部分や、難しかった点はありますか?

ロー監督:原作はわずか30ページの絵本なんです。それを一本の映画としてボリュームを出すのは大変ではありました。脚本でいろいろと工夫をして、アクションやユーモアの要素を付け足して。それからオットーというキャラクターは、原作には出てこないオリジナルのキャラクターなんです。オットーの存在は、本作のサイドストーリーである「エッラと同年代の子との友情」を描くために入れました。

-オットーにまつわるエピソードは、笑えない内容もあります。オットーは原作にはいないキャラクターとのことですが、どのようにキャラクターを組み立てたのでしょうか。

ロー監督:オットーのキャラクターづくりではユーモアの要素を意識しました。脚本を担当したサーラ・シェーと考えたキャラクターなのですが、彼女の昔の友達で、ものづくりや発明が得意な子がいたそうなんです。そうした要素がオットーのキャラクターにつながってますね。

私自身も幼少期にいじめられていた経験があります。幸いにも、私はオットーが語ったようなひどい目には遭いませんでしたが……。私たちが実際にしてきた経験、そしてもしかしたら世界中の子ども達に共通するといえる経験を足して出来あがったのがオットーのキャラクターなんです。


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-周囲になじめないエッラの態度に子どもの頃を思い出し、共感する観客は多いと思います。エッラが抱える「同年代の子どもと、自分は違う」といった視点もリアルですね。こうした視点は監督の内面にあるものでしょうか?

ロー監督:エッラのキャラクターは私の幼少期の反映でもあります。子どもの頃に周りとなかなかなじめなかった人、孤立感を感じていた人は少なくないのではないでしょうか。私はすごくシャイで、エッラと同じように一人の人と仲良くする傾向もありました。でももっとたくさんの人と接するオープンなマインドを持った方がいい、ということもわかっていたんです。

ここでロー監督の前作『ロスバンド』のことも交えて、質問をしてみました。日本でもスマッシュヒットとなった『ロスバンド』は、ノルウェーを舞台に少年少女がバンドを組んでロックフェスティバル出場を目指す青春ロードムービー。爽やかで明るい気持ちになるストーリーながら、子ども達が抱える悩みがリアルで、普遍的な家族の問題から、いまのノルウェーが抱える社会問題も垣間見ることができる作品です。

-『ロスバンド』でもマッティンやティルダの背景はシビアともいえるものでした。そうした苦みともいえる要素を物語に加えるのは意図されているのでしょうか。

ロー監督:意図的なものです。『ロスバンド』は明るい話です。若い人はいろんな困難を抱えているもので、そういった困難は時には一人で抱えきれないものだと思います。『ロスバンド』は友情をテーマにしている映画で、4人それぞれが悩みを抱えている。一人では対処できないけれど、バンドとして、また友達として4人で立ち向かうことで問題を乗り越えられるということを映画のテーマにしているんです。

子ども時代は誰にとっても大変な時期だと思います。家庭内のこと、両親の離婚……問題がある子どもは少なくありません。例えばマッティンのように父親の期待に応えられない子どももいるでしょう。映画でそういった子どもたちを描くことで、「君は一人じゃない」と伝えたいと思っています。

-『リトル・エッラ』では、エッラのおばあちゃんの家に住む三つ子が登場しますが、かなり不思議な存在ですよね。あれは何かの象徴でしょうか? 彼らは原作にいるのでしょうか?

ロー監督:彼らは原作に出てくるキャラクターなんです。何かの象徴かといえば、エッラとトミーの関係に対比する存在だと思います。例えばエッラとトミーはお寿司やモンスターケーキなどちょっとユニークな食べ物を楽しんだり、トミーはエッラのことをいつも気にかけていますよね。一方の三つ子達といえば、彼らはいつでも同じようなものを食べて、エッラのことなど気にせずに自分たちのことばかりを気にしている、そんな対比です。


© 2022 Snowcloud Films AB & Filmbin AS

-本作ではトミーとスティーブのカップル、マイサンのような性的マイノリティが登場しますが、配役や演出上で気にかけた部分がもしあれば教えてください。

ロー監督:原作の絵本でもトミーとスティーブのカップルはとても自然に描かれていて、私はそれがすごくいいと思いました。愛とはただの愛で、普遍的なもの。そこに男女の性別の違いはないと思います。トミーがガールフレンドを連れてきたとしても、エッラは同じ行動をとったでしょうね。

-スウェーデンといえばピッピやニルス、ノルウェーにはスプーンおばさんといった国民に愛される絵本やキャラクターがありますね。監督自身はどんな絵本や登場人物が好きでしたか?

ロー監督:現在ではエッラの原作者であるピア・リンデンバウムさんが一番だと思います。多分スウェーデンでもっとも優れた児童絵文学作家と言えるでしょう。子どもの頃はリンドグレーンの『長くつ下のピッピ』や、エーリヒ・ケストナーの『エーミールの探偵』シリーズが好きでした。

-本作に対する印象的な感想や反応はありましたか?

ロー監督:とても良い映画評を新聞でも書いてもらいました。ノルウェーの子ども映画祭では、観客賞をもらったんです。それから学校での上映会にも私はよく参加しているのですが、子どもたちがすごく気に入ってくれている様子を目にしています。「大好きな映画です!」と言ってくれてましたね。

-次作のアイデアは既にありますか? 描いてみたいテーマはありますか?

ロー監督:ファンタジー作品なのですが、2つ構想があります。1つは北欧の海賊をテーマにした作品。もう一つはまだなんとも言えないのですが。

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今回の来日で会った方がみな口々に「いい人すぎる!」と絶賛していたロー監督ですが、インタビューでもその人柄が伝わってくるようで、とくに子ども達が抱える悩みや困難に真摯に向き合おうとしていることが言葉の端々から感じられました。ロー監督、ありがとうございました!

私が『リトル・エッラ』や『ロスバンド』でとくに好きな部分は、子ども達の抱える悩みがさまざまなレイヤーで描かれているところ。たとえばロスバンドには怪しげな宗教にハマっているヒステリックな兄をもつ少年が登場しますし、『リトル・エッラ』のオットーは移民の背景を持ち、彼の両親についても、ドキリとさせられるエピソードがさらっと挟まれています。一方で好きな女の子に振り向いてもらえないと悩む少年もいて、その悩みの違いに人生の不公平さを感じずにはいられません。でも主人公の少年少女たちは、お互いを支え合うことで困難を乗り越えていきます。

『リトル・エッラ』も『ロスバンド』も、明るく希望のある物語のなかに、ざらりとひっかかる現実の苦みが織り交ぜられています。そうした苦みの描き方、子ども達が抱える困難の描き方がとても誠実なんですね。だからこそ国を超えて、子どもからも大人からも共感を得ているのだろうなあ、なんてことを今回のインタビューを通して改めて思いました。ちょっぴり不気味な(でも映画では、いい仕事もするんですけどね!)三つ子にも、そんな意味が込められていたとは。原作者ピア・リンデンバウムによる、子どもから見た大人の描き方の鋭さにも気づかされました。

『リトル・エッラ』の劇場パンフレットでは、北欧の子ども文化を専門とされる東海大学の上倉あゆ子先生が、リンデンバウムについて、また原作絵本『リトルズラタンと大好きなおじさん』やリンデンバウムのその他の作品についても解説をされているので、ぜひ合わせて読んでみてくださいね。


© 2022 Snowcloud Films AB & Filmbin AS

「君は一人じゃない」との監督からのメッセージ。いまを生きる子ども達に一人でも多く伝えたいですし、自分自身も勇気をもらいました。『リトル・エッラ』のさらなる大ヒットを願います!  最後に本作を配給し、今回のインタビューも手配してくださったカルチュアルライフのみなさま(そして通訳の青木順子さんも!)、本当にありがとうございました。

映画『リトル・エッラ』公式サイト