2020年の北欧映画ベスト5

今年はコロナの影響で映画館が営業できなかったり上映が延期になったり、映画業界にも本当に厳しい一年だったと思いますが、それでもいろんな北欧関連作品を見ることができました。配給会社や映画祭、映画館のみなさまには改めて感謝です。おうち時間にはネットで配信している作品をはじめ、長年見たかった作品を探し出してDVDレンタルしたりと、結構いろいろ見ましたね。ではいきましょう、本年のベスト5です!

①『ホモ・サピエンスの涙』 スウェーデン

いやー今年、この作品が観られてよかった。相変わらず神のような視点で、悲劇も喜劇も同じように優しく、厳しい眼差しで捉えるロイ・アンダーソン。人間の営みを、こんな風に俯瞰して見ることのできる監督の視点は、今のような時代にこそ必要だと思うのですよ。

「人間は弱い、でも人生は美しい」というアートにおける普遍のテーマを、独自の美学と変態的な手法で描き続けるロイ・アンダーソン御大(77歳!)。4〜5年に一度にしか作品を拝めない寡作監督の新作を今年見ることができたのは、奇跡。

11月からの公開で、まだまだ全国各地で上映しています。各メディアの年間ベストにも選ばれているようですよ!

余談ですが、ぴあフィルムフェスティバルでロイ・アンダーソンの未公開作品が見られたのも良かったです。とくに短編集の切れ味の鋭さよ……!あと斎藤・セクシー・工がロイ・アンダーソンのファンと知れたのも良かったです(PPFでも本作でもコメント寄稿されています!)。

神の視点は健在。ロイ・アンダーソン新作『ホモ・サピエンスの涙』

②『わたしの叔父さん』 デンマーク

昨年の東京国際でグランプリを受賞した注目作。公開は来年、2021年の1月からなのですが今から強力に推したい一本です。デンマークの過疎化していく農村の、ある家族の話。こう書くと地味です。確かに地味です。絵面とか物語の展開的には地味です(はい、3回言った)。画面に映るのは毎日の身支度、食事、仕事と家事。なんということはない会話と団らんの風景。街と離れた北欧の暮らしなんてなかなか見る機会がないですが、これまで旅や本で見聞きしてきた北欧という国や人々の価値観、デザイン、暮らしのあり方が、本作の場面とシンクロしていきました。北欧の豊かな暮らしとか、ヒュッゲとか、さんざん言い尽くされてきた感がありますが、果たして私達はそれをきちんと捉えられているのか?と思うことも多いです。それがね、本作では丁寧に描かれている。おそらく監督も演者も、そんなことはまったく意識していない気がしますけど、ね。

鑑賞後、本作ができるまでの裏側を知って「そんな作品の撮り方があるのか……」と脱帽。監督の発案、役者の選出と関係性など裏側を知ってから見たら、また違って見えて良かったです。とにかく良い。

③『ストックホルム・ケース』 カナダ・スウェーデン

主演はイーサン・ホーク、監督はカナダ出身のロバート・バドローと、いわゆる”北欧映画”枠からはみ出そうな本作ですが舞台は70年代のストックホルム。そして主演はスウェーデンが誇る才能、ノオミ・ラパス! いや〜そろそろ彼女にも「北欧の至宝」という冠を献上していいのではないか……?と思っていたのですが、本作のノオミは神。ちなみにノオミの夫役の人が、遠目に見るとマッツ(元祖・北欧の至宝)にちょっと似ている。

人質が犯人に対して恋愛感情をもつ「ストックホルム症候群」という言葉が生まれるもとになった、スウェーデン史上もっとも有名な強盗事件を追う本作。イーサン・ホーク☓ノオミ!70年代!!とスペックで興奮しすぎてストーリーにはそれほど期待していなかったのですが、「ストックホルム症候群」などという言葉でひとくくりにしてしまっていいのかと、たとえ専門家だろうが内情を知らない外野が勝手に当事者を定義付けすることの怖さも感じさせるような良作でした。

個人的には本作で描かれる当時の首相、オロフ・パルメ像が面白かったなー。書籍や資料から思い描いていた人物とはまた違って、怖あ〜!ってなりました。

④『ダンサー』 スウェーデン

スウェーデンのアカデミー賞にあたるグルドバッゲ賞で作品賞に輝き、本家アカデミー賞の国際長編映画賞にスウェーデン代表として出品された話題作。カンヌ映画祭でも上映され、国際的に注目を集めた一本です。本作は上記『ストックホルム・ケース』とはうってかわって、スウェーデン代表作なのにスウェーデン要素がまったく出てきません。舞台はジョージアで、伝統舞踊のプロダンサーを目指す青年が主人公。

監督はジョージア系スウェーデン人のレヴァン・アキン。ジェンダー問題や人権に意識の高いスウェーデンで育った監督が、自分がルーツをもつ国の現状と問題を鮮やかに描き、それがスウェーデン代表として選ばれ、国際舞台で評価されていく……そのバトンが渡されていくような道程も含めて感動してしまいました。

主人公を演じるレヴァン・ゲルバヒアニはダンスも演技も素晴らしいし、身に危険が及ぶかもしれない中で迷いながらも「母国のために」と決意して、演じきったのもすごい。彼のダンスと演技に(これが役者デビューだそうですよ!)拍手喝采せずにはいられない。勇気をもってバトンを渡す人が入れば、新しい価値観が生まれ、変わっていける。そんな可能性や希望を感じさせてくれる作品でもありました。男性二人がメインキャストなのですが、彼らを支える幼馴染の女性マリちゃんがまたいいんですよ〜。

国境を超えたジョージアへの喝采『ダンサー そして私たちは踊った』

⑤『同窓会』 スウェーデン

久しぶりに大当たりしてしまった、生涯胸に残るであろうトラウマ映画! 毎年コンスタントにトラウマ必至作品を北欧から日本へ届けてくれる映画祭トーキョーノーザンライツフェスティバルで、ついに観てしまった。日本でのプレミア上映は数年前、当時はおじけづいて観なかったのですが、今年10周年を迎えたノーザンの記念上映で観た。観てしまった。

これは踏み絵みたいな作品です。あなたは本作が好きか嫌いか。許せるかどうか。アンナ・オデルはアリかナシか。私はアンナ、好きですよ。同級生にいたらビビるけど。

人間関係に悩む人、学校時代に苦い思い出のある人にはぜひ観てほしい。本作によって傷や悩みが癒やされるとか、そんな作品じゃないんですけどね! アンナ・オデルというキレッキレの感性をもつ野獣(ですよね?)が全力で人の良心と悪意をぶった切っていく様にただただ唖然とするしかないんですけれど。この映画体験は、生涯忘れないでしょう。

私はいつか『同窓会』を観た人々と、アンナについて語る同窓会をやりたい。問題作という言葉はアンナのためにあるのではないかと、私は思います。

さてベスト5はここまでですが、もう少し、紹介したい作品をあげますね。

『Away』  ラトビア
ラトビアのアニメーション『Away』も印象に残る作品でした。日本のアニメのような親しみやすい絵柄で、ストーリーは骨太。飛行機事故で唯一生き残った主人公が、謎の巨人に追われ、逃げ続けながら自分の居場所を見つける物語に私は『マッドマックス 怒りのデスロード』のフュリオサが重なってしまった。淡々としているけれど、じわりと胸が熱くなるような作品。あと鳥が可愛い。

北欧映画ではないのですが、この作品も素晴らしかった!

『グランド・ジャーニー』

ノルウェー北極圏からフランスへ、鳥とともに飛ぶ空の旅。ドキュメンタリー作品も作られているフランスの実在の鳥類研究者をモデルに「渡り鳥と一緒に飛んで、飛行ルートを教える」驚きのプロジェクトを映画化したもの。出発点となるノルウェーでの人間模様も笑えて泣けて、空から体験するヨーロッパ縦断旅行は本当に気持ちが良かったです!これ配信されないかなー

渡り鳥の視線でノルウェー北極圏からフランスを旅する『グランド・ジャーニー』

アマゾンプライムで面白かったのが、この2作。奇しくもどちらもアイスランドが舞台です。

『隣の影』
おっしゃれーな北欧スタイルの家を舞台に、戦慄のお隣さんトラブルが描かれた一本。2018年アカデミー賞の外国語部門でアイスランド代表に選ばれた作品です。「笑顔で挨拶、心に殺意。消えた猫に、吠えない犬ー」というキャッチコピーがすべてを表していて秀逸。猫が大変猫らしく、重要な存在で登場します。

『LIFE』
ベン・スティラー扮する主人公は、あのLIFE誌に勤めるサラリーマン。家族のために夢を諦め、妄想の世界へ逃げ込んでいた主人公が一念発起して目指す場所はグリーンランドに、アイスランド! 絶景と自然の驚異に目を奪われつつ、現地の人々との交流も爽やかに描かれています(酔っぱらいや変人も普通に登場)。観終えた後は旅に出たくなること間違いなし。今は行けないけど、絶対にまた行くぞ!って思うし、旅っていいなあ〜〜とガッツポーズしたくなる快作。ベン・スティラー天才。

最後に、映画界的に沸いた今年の一本といえばこれでしょうか。

『ミッドサマー』
北欧好きからは賛否両論……いや、かなり否定的な意見が多かった気がしますが、本国では絶賛だったという本作。今年はコロナ対策でもだいぶバッシングされてきたスウェーデンですが、スウェーデンをはじめ北欧的なるものへの世界の眼差しを凝縮したような作品にも思えて、私は面白かったですねー。スウェーデン人が愛する国民的行事がホラー&トラウマ映画の代名詞のようになったのはお気の毒感もありますが、世界的に知名度アップでいいんじゃないでしょうか!

ここ数年、日本公開もどんどん増えている北欧映画、来年もたくさん観ていきたいですね。
北欧映画館では他にも北欧作品をレビューで紹介していますので、気になる方は合わせてどうぞ!

1件の返信

  1. 2021年1月9日

    […] スーパーでの買い出しと暮らしがとても丁寧に描かれているんです。先日あげた「2020年の北欧映画ベスト5」でも早々にランクインさせてしまった、すごーく素敵な作品です。ぜひ映画と […]