7/23(木・祝)公開!渡り鳥の視線でノルウェー北極圏からフランスを旅する『グランド・ジャーニー』

映画は旅のようなもの。そして時に、リアルな旅ではのぞけない、知ることのできない世界を旅させてくれるもの、とは常々思っていましたが、まさか映画でこんな旅をさせてもらえるとは……あああ最高すぎる。映画『グランド・ジャーニー』は渡り鳥の視点で、北極圏ノルウェーからフランスへの空の旅を体験させてくれるのです。

鳥類研究者が絶滅寸前の渡り鳥の保護、繁殖のため鳥たちに飛行ルートを教えることを思いつき、息子とともに超軽量飛行機でノルウェーからフランスまで一緒に飛んでしまう。そんな破天荒な物語は、フランスを拠点に活動する実在の研究者クリスチャン・ムレクの体験に基づいたもの。渡り鳥に人間が「渡り」を教えるという発想には驚くばかりですが、25年前に雁との飛行を成功させて以来、ムレク氏が繰り返し行っているプロジェクトであり、その軌跡はドキュメンタリー作品にもなっています。「人は(自然に)有害な介入もしているけれど、前向きな介入もできるはずなんだ」とはムレク氏の言葉です。

本作は親子の成長物語でもあります。スマホがないと生きてけないよ! みたいな14歳の現代っ子トマが、鳥たちに親のように慕われ成長していく姿は親でなくてもウルウル必至。監督のニコラ・ヴァニエは幼少期を豊かな森や池の点在するフランスのソローニュ地方で過ごし、自らも冒険家として世界を旅して自然や動物を守るために活動しており、だからこそトマと鳥たちの交流シーンには説得力があり、鳥たちの可愛いらしさ美しさは、ヴァニエ監督の目を通しているからなのだなと納得しきり。いや〜もう、すべての鳥好きは観てください。尊いから!

Tournage du film “Donne moi des ailes” realisé par Nicolas Vanier. Avec Jean-Paul Rouve, Mélanie Doutey, Louis Vazquez, Fred Saurel ey Lilou Fogli.

Tournage du film “Donne moi des ailes” realisé par Nicolas Vanier. Avec Jean-Paul Rouve, Mélanie Doutey, Louis Vazquez, Fred Saurel ey Lilou Fogli.

そして息子への愛情はあるものの、研究に熱を注ぎすぎるがゆえ結果的に放任主義になっているクリスチャンのような親のいい面と危険な面を、かつてパートナーだった母親の視点も交えつつ描いているのも見事。親は子どもを信じるべき、と言うは易しですが、もしそれが最悪の結果になったら……? そんな苦しい葛藤が伝わってくるのですよ。トマくらいの歳の子どもがいる方にはきっとより一層、胸に迫るテーマだと思いますし、子育てって大げさでなく命がけなんだなと伝わってきます。

さて本作、もうひとつの見どころがノルウェーの自然の美しさです。ヨーロッパでも屈指の自然を擁すると称えられるノルウェーですが、それを鳥の視線で眺めることができるんですからね!(フランス〜ノルウェーの行程を行きは人の視点で、帰りは鳥の視点となるのが、またいいんだ)

そんなノルウェーの壮大な自然とともに登場するノルウェー人たち。フランス人(それもだいぶ型破りなタイプ)に、ノルウェーの役人たちがどう映るか……ま、そこは思ったとおりです。杓子定規で融通がきかない。情熱的に行動するフランス人との対比は笑うところでもあるけれど、ノルウェー贔屓としては若干やるせない思いもあります。ノルウェーだって自然を愛し、動植物を保護することにかけては、国も国民ひとりひとりもかなり意識が高いですしね。ていうかそもそもクリスチャンはルール破りまくりですからね。目の前の雁をなんとか守りたいクリスチャン一団と、自然体系を守り、長い目での自然保護を考えるノルウェー人の対立には、おそらくこういう闘いが現場には日々あるのだろうなあとも思わされます。「環境保護」といった漠然とした目標だけで一枚岩になれるほど、ことは簡単ではないのだろうな、と。

また役所としては融通がきかなくとも、国を超えて、お互いのバックグラウンドを超えて人と人として助けあえる、そんな心あたたまるシーンも出てきます。トマに手をさしのべる少女が着ているあのセーターは、ノルウェーの国旗色を配した伝統的な柄なんですよね。あのシーンは、全ノルウェーが泣いたと思う。あとスウェーデン人も。

鳥の視点で豊かな自然を眺めるといえば、スウェーデンの『ニルスの不思議な旅』を思い出します。『ニルスの不思議な旅』はもともとスウェーデンの子ども達が地理や、自然の尊さを学べるよう作られた物語。本作とも通じるところがあるなと思っていたら、なんとニルスへのトリビュートもちょこちょこと挟み込まれていました。トマがひときわ可愛がる「アッカ」の名前は、『ニルスの不思議な旅』に登場する雁の群れの隊長の名にちなんだもの。日本ではアニメで広く知られるニルスですが、スウェーデンや北欧だけでなく世界中で愛されていたのだな、と思うシーンもあります。また一羽だけ種類が異なるアッカの存在は、アンデルセンの『みにくいアヒルの子』や、マチーセンの『青い目のこねこ』を彷彿とさせます。

最後にヴァニエ監督の言葉を一部紹介しますね(全文は映画公式サイトに載っていますのでぜひ読んでみてください)。

「〜絶滅寸前の動物をひとつ救うことほど人生で価値があることが、他にあるだろうか?私は映画で世界を変えようと思っているわけではないけれど、できるだけ多くの人に、世界の美しさを見せて伝えることが重要だと思っている。」

北極圏ノルウェー、デンマークを抜けてフランスまでの空の旅は、ほぼCGなし。劇中に登場する超軽量飛行機を使い、鳥たちにできるだけ接近できるよう失敗を繰り返しながら撮影していったのだそう。もう撮影自体が物語とシンクロしていますね。実際、ムレク氏とヴァニエ監督には共通する部分も多かったそうで、だからこその臨場感と、全編を通じて自然に対する愛情や敬意が感じられる映像となっているのでしょうね。クリスチャンを演じたジャン=ポール・ルーヴは「映画のクリスチャンはムレクとヴァニエ監督を混ぜ合わせたような人物」と語っています。

そして環境保護の意識が高まるフランスで本作は大ヒットを記録し、上映に際してフランス本国では教育省や鳥類保護連盟と提携して教育プログラムも作られたそうです。さらに本作を通じてムレク氏とヴァニエ監督は共同で鳥を救うプロジェクトを新たにスタートさせたとか。映画で世界は変わっていくのだと感じさせるこの展開。本編でも「飛行が成功すればよし」ではない現実のシビアさとともに、ふとしたきっかけでバトンが渡されていく希望が描かれています。親世代はもちろん、トマ世代にもぜひ見てほしい一本。もういっそ、夏休みの課題映画にしてほしい!

鳥のように空を飛びたい、鳥と一緒に空を飛びたい、そんな人類永遠の夢を、ぜひ大きなスクリーンで体験してみてください!

『グランド・ジャーニー』公式サイト