スウェーデンのインテリアと風物詩を旅する、映画『ロッタちゃん』の世界

恵比寿ガーデンシネマで観たのがもう24年前! 映画『ロッタちゃんはじめてのおつかい』が2Kリマスター版で劇場に戻ってきます!

スウェーデンの児童文学作家アストリッド・リンドグレーンによる『ロッタちゃん』シリーズは、読んだことがなくても名前は知っているという人も多い作品ですよね。2000年に映画が公開された折には大ヒット(同館での動員記録は歴代5位だそう!)。公開に合わせて、ロッタちゃんの相棒である、ぶたのぬいぐるみバムセも発売されて、即完売してしまったこともよく覚えています。


『ロッタちゃんはじめてのおつかい』より

さてそんな日本を席巻した『ロッタちゃん』シリーズを久しぶりに観て、ロッタちゃんの可愛さと、演じるグレテ・ハヴネショルドの天才子役ぶりに舌を巻くと同時に、目を奪われたのがインテリアです。キッチンの棚、コーヒーカップ、壁や扉にかけた布、イースターの飾りやテーブルクロス……ああ可愛すぎる。スウェーデンらしさが詰まっている。24年前に観た時も「レトロで可愛い〜」と思いましたが、いま改めて見ると、時代を反映したスウェーデンデザインがあふれていて楽しい。

思えばロッタちゃんて、いつの時代のお話なんだろうと気になって調べてみると、最初の物語が出たのが1956年。映画に登場するインテリアや服のデザインを見ても、40年代後半〜50年代設定でしょうか。戦後、スウェーデンが福祉国家として住宅政策に力を入れてきた時期ですね。

ロッタちゃんの家のキッチンがまさに40-50年代の特徴的なスタイルです。コーヒーカップや食器類を見ても、この時代っぽいデザインが目につきます。一方でほうろうのやかんや鍋など、少し前の30年代らしきデザインも混ざっています。壁や扉を彩るテキスタイルを見ても、50年代的パターンもあれば、昔ながらの刺繍が施された物もあったりと、そのミックス感がいい。

映画の冒頭から登場するロッタちゃんが寝ているベッド、あれはたぶんソファベッドでしょうか。兄ヨナスが寝てるベッドもたぶん折畳式。そうしたいわゆる”省スペース家具”がスウェーデンの一般家庭では案外と使われていたんですよね。ロッタちゃんの家を改めて眺めると、キッチンにあるような時代を象徴するデザインと、おそらく前の時代から続けて使われている物とが混ざり合っているのが、リアルでいいなあと思いました。


『ロッタちゃんと赤いじてんしゃ』より

お隣に暮らす、ロッタちゃんのよき理解者ベルイさんの家は、ロッタちゃんの家に比べると、もう一世代前のインテリアです。そしてベルイさんの家でも、ベルイさんの少女時代の写真や、ベルイさんの娘が持っていたお人形におままごとセットなどが出てきて、前の時代とつながっていることが伺えます。このあたり、古い物が好きな人にはたまらないし、インテリアってこうして古い物といまのデザインが住む人によって織り交ぜられて作られていくんだな、なんてことを思いました(ロッタちゃんがそれらに目を輝かせているのもまたいい)。ベルイさんは編み物をよくしているのですが、モルモルスルータ(おばあちゃんの四角という意味)とよばれるスウェーデン版グラニーブランケットがあったり、ガラスの器には19世紀から親しまれているという、赤と白のしましまキャンディが入っていたりする(このキャンディは今も売られてます)。

『ロッタちゃんとじてんしゃ』に出てくる、ロッタちゃんのおばあちゃんの家もまた違って面白い。玄関の造りや、ケロシンランプ主体の灯りづかい、スウェーデン版裂き織りマットの使い方など、屋外博物館スカンセン(スウェーデンにある建物園のような博物館)で見た1920年代頃の農家みたい。でもワンピースにサンダル、頭にはスカーフを巻くおばあちゃんのファッションは(当時の)今風といった感じで、田舎暮らしだけど、ところどころいいデザインを取り入れて暮らしているんだな、なんて様子が伝わってきます。こうして時代や場所を超えてスウェーデンデザインやインテリア、四季折々のイベントを旅できるのが面白い。

イースター用にはカーテンをかけかえ、柄のクロスにさらにテーブルセンターを組み合わせたりと、ああスウェーデンらしい布使い〜〜!と、テキスタイル好きも興奮必至。ちなみにスウェーデンのイースターでは子ども達が魔女の格好をしてお菓子をもらいにまわるという、ちょっとハロウィン的な催しがあります。カラフルな羽飾りで家やショーウィンドウを飾るのもお約束。子ども達は魔女のお化粧として頬を赤くして、そばかすを描くんですが、ロッタの魔女には爆笑。24年前も大笑いした気がします。


『ロッタちゃんはじめてのおつかい』より

キャンディといえば、スウェーデンには「土曜日のキャンディ」という習慣があります。キャンディを買ってもらえるのは土曜日と決まっていて、子ども達はそれを楽しみにしているし、『Lördagsgodis(土曜日のキャンディ)』と名付けられたお菓子はイケアでも売っています。ロッタちゃんがキャンディを買いに行くお店での、「この国の人は、土曜日しかお菓子を買わない」というやりとりは、そういう背景があるからなんですね。

映画の撮影は、リンドグレーンの故郷ヴィンメルビーにあるテーマパーク、アストリッド・リンドグレーン・ワールドとヴィンメルビー市内で行われたとのこと。曲がりくねった坂道とか、旧型の車に荷物をあれこれ詰めてボンネットを揺らしながら走っていく風景とか、改めて見るとものすごく宮崎駿っぽいなあと思いました。宮崎駿といえば魔女宅の舞台がスウェーデンといわれますが、そもそもこういうスウェーデンの原風景的なものが好きなのかなあ、なんて思いました。


『ロッタちゃんと赤いじてんしゃ』より

しかしこうして観ると結構な長回しが多い。自由に演じさせていると思うのですが、ロッタちゃん役のグレテは本当に天才子役ですね。自転車と格闘するシーンなんて、どこまで自由に演らせるのだろうかとハラハラしてしまいました。

個人的な話をしますと、私は自分も姉兄がいて末っ子で、子どもの頃はよく「ロッタちゃんみたい」と母に苦笑されていました。ロッタちゃんみたいに「ごうじょっぱり」でいつも「ふくれっつら」で言う事を聞かない子だったからでしょう。自分としては「ロッタちゃんみたい」というのは末っ子でわがまま、と言われているようで、そう言われるのが好きではなかったのですが。


『ロッタちゃんはじめてのおつかい』より

24年前に観た時には、グレテ・ハヴネショルド演じるロッタちゃんがとにかく可愛いし笑えるしで、ロッタ評価がぐっと上がったのですが、いま改めて観ると、ロッタちゃんの悪童ぶりに苦笑している自分がいます。思い通りにならないと大声を出していつも怒ってるロッタちゃん。自分はなんでもわかっていて、よくできると思っているロッタちゃん。兄のヨナスと姉のミアが「またかよ」とうんざりした顔で見るのもわかる。でもそんな二人も、両親も、ご近所さんも、町の人も基本的にロッタちゃんがしたいままにさせていて(ママは時折、怒らざるを得ないけど)、リンドグレーンの思いがよく現れている作品だなあと思いました。スウェーデンのインテリア、風物詩好きとしては繰り返し観たくなる本作ですが、合わせて原作も読み返してみたくなりました。

今回は”ロッタちゃん世代”にも楽しんでもらえるようにと字幕版に加えて吹き替え版もできたとのこと。ご家族で楽しめますね。

『ロッタちゃん はじめてのおつかい』は3/1(金)~
『ロッタちゃんと赤いじてんしゃ』は3/22(金)~公開 公式サイト

『ロッタちゃん はじめてのおつかい』 2Kリマスター版
Lotta flyttar hemifrån (LOTTA LEAVES HOME)
1993年/スウェーデン映画
© 1993 AB SVENSK FILMINDUSTRI ALL RIGHTS RESERVED

『ロッタちゃんと赤いじてんしゃ』 2Kリマスター版
Lotta på Bråkmakargatan (A CLEVER LITTLE GIRL LIKE LOTTA)
1992年/スウェーデン映画
© 1992 AB SVENSK FILMINDUSTRI ALL RIGHTS RESERVED