国境を超えたジョージアへの喝采『ダンサー そして私たちは踊った』

スウェーデンのアカデミー賞にあたるグルドバッゲ賞で作品賞に輝き、本家アカデミー賞の国際長編部門スウェーデン代表となった話題作『ダンサー そして私たちは踊った』。カンヌ国際映画祭でプレミア上映されて以来、各国で絶賛されている作品です。

舞台はコーカサス地方の国、ジョージア。伝統的なジョージア舞踊のダンサーを志す主人公の青年メラブは線が細く、踊りのひ弱さを指摘される日々。男らしさが求められる伝統舞踊の世界で、また保守的な社会で、自分らしくあるためにメラブが自分と向き合い、それを大好きな踊りへと昇華させていく過程が素晴らしいです。監督はジョージア系スウェーデン人のレヴァン・アキン。ジョージアにルーツをもつ監督によると、ジョージアの人々にとって民族舞踊とは伝統と国民性の規範とされる重要なもの。実際の舞踊はもちろん、指導者の言葉やふるまいからも「男性的であれ!」のメッセージがびんびん伝わってきます。いやしかしジョージアがこれほど保守的でマッチョ思考が強い国とは知らなかった。

メラブ君の恋愛模様も作品の肝なのですが、私は前情報なしで観てよかったので、そこは伏せておきますね……。

当初、ジョージアが舞台で役者がスウェーデン人なのかな?とか、何かしらスウェーデンとのつながりを予想していたのですが、キャストはみなジョージア出身で、全編ジョージアの物語なんです。他国にルーツを持つ人々による移民の物語、他国の価値観を取り上げる作品は北欧で近年ますます注目を集め、多くの作品が作られていますが、スウェーデンという要素を入れない作品が国の代表作になることには正直驚きました。でもこれは喝采せずにはいられない。先日、アカデミー賞授賞式で作品賞を獲得した『パラサイト』のプロデューサーが「この快挙は、韓国映画を批評的にサポートしてきた観客のおかげ」と話していましたが、本作をサポートしたスウェーデン映画界や観客もブラボーです。

アキン監督が本作を作ろうと思ったのは、2013年にジョージアの首都で起きた事件がきっかけ。プライドパレードを行おうとした若者たちが極右派の人々から攻撃されたことを知り、自身のルーツでもあるジョージアのために何かしたいと本作の構想が始まったそうです。主役のメラブを演じるレヴァン・ゲルバヒアニはジョージア生まれ、現在は母国でコンテンポラリーダンサーとして活躍する青年。母国への強いアンチテーゼともなる本作に出演することに、最初はためらい、出演交渉を5回は断ったそうですが、母親や友人と話しながら「国を変えるきっかけにしたい」と出演を決めたそうです。本国での上映時には反対運動が起きたと聞いて、改めてその勇気に感服します。

メラブと、彼のライバルとなるイラクリという二人の男性が本作の軸となるのですが、メラブの幼なじみであり長くダンスパートナーをつとめてきた女性マリが、またいいのです。女性はジョージア舞踊ではお飾りのような存在で、社会でも下に置かれている。でも彼女がメラブの未来を照らすんです。書いててまた泣けてきました……。友達だからとメラブを支えるマリの姿は、ジョージアにエールを送るスウェーデンの姿と重なりました。私はマリのような女性になりたい。

ダンスが好きな人には無条件でおすすめ!「男らしく」ではなく「自分らしく」でダンスが力強くなっていくシーンは感動です。私は新宿シネマートで観たのですが、館内にあるメラブ役レヴァン君のインタビューも必読です。ダンサーとして、役者として魅力的なレヴァン君。「国のために」と語るその人格も素晴らしい。パンフレットも買いです!グルドバッゲ賞で主演男優賞、ベルリン国際映画祭では新人の登竜門とされるシューティングスター賞に輝き、アメリカのファッション誌が選ぶ「カンヌ映画祭でもっとも刺激的なスター」にアントニオ・バンデラスやウィレム・デフォーと並んで選ばれるなど世界からの注目度も並々ならぬ才能。今後の活躍が楽しみです!

『ダンサー そして私たちは踊った』 シネマート新宿、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか京都や大阪の劇場でも公開中です。