2/21(金)公開。『ミッドサマー』に見るアリ・アスターのスウェーデン愛

いよいよ公開の映画『ミッドサマー』。長編デビュー作にして世界を震撼させた『へレディタリー』のアリ・アスター監督最新作ということで映画ファンの間で話題沸騰の作品です。いやほんと『パラサイト』や『ジョーカー』級の注目度ではなかろうか。実際、先日のアカデミー賞授賞式のオープニングでもジョーカーと一緒に『ミッドサマー』チームが踊っていたのには驚きました!

さて本作、タイトルそのまま舞台はスウェーデンのミッドサマー(夏至祭)なのです。ワケありの主人公が破局寸前の恋人とその友達とともにスウェーデンでミッドサマーのお祝いに参加するも、そこでは惨劇が待っていた……というストーリーで、アメリカの若者たちが海外で羽目外して楽しもう!と乗り込んだスウェーデンの村は想像を絶する奇怪な世界であり、悪手悪手を重ねて悲劇まっしぐらっていうホラーの王道のような展開です。ストーリー自体はシンプルとも言えるのですが、アリ・アスターの世界観と北欧のミッドサマーの相性が想像以上に良かった。

北欧のミッドサマーといえば白樺の葉や花々を巻き付けたメイポールに花冠。映画のメインビジュアルでも、花冠を頭に載せた泣き顔の主人公と、その背後にはメイポールのまわりを囲む民族衣装に身を包んだ人々の姿があります。ちなみにあのメイポールは男根の象徴と言われています。スウェーデン好きのみなさんはメイポールといえば、カエルダンスを思い浮かべるかもしれませんね。でも残念ながらあれは出てきません。イチゴケーキも出てこない。ニシンは食べるが、その食べ方はオランダ式ではありませんか?と、つっこみたいところもあった。舞台となる架空の村に広がる森や山並みも、なんだかスウェーデンぽくない気がする(聞いたら撮影はハンガリーだそうです)。夏至祭の衣装もそれらしいんだけど、なんというかVOGUE辺りのファッション誌でミッドサマーをテーマに撮った写真みたいな、よそよそしさがある。白い民族衣装に施された刺繍はバルト三国や東欧っぽいし。

その「なんとなく北欧感」な雰囲気に、最初はもしかして文化盗用系ですか?と思ってしまったのだけれど、もともとスウェーデンの映画プロデューサーから「スウェーデンを舞台にホラーを撮ってほしい」とオファーを受けて始まった企画なんですね。製作にあたりスウェーデンや北欧に伝わる古い習わしや伝統行事については随分と調べたそうで、映画に出てくるモチーフや謎の習わしは本当にスウェーデンや北欧に伝わるものなのだそうです。あの数々の恋のおまじないも、です。スウェーデン人、変態だなぁ。そして映画を見終えて、ああこの作品は随所にスウェーデンへの愛が散りばめられているのだ、と思いました。

まず『ベニスに死す』で美少年タジオを演じたスウェーデンが誇る俳優、ビョルン・アンドレセンが出ている。いや、出てたの気づかなかったんですけど。後から資料を読んで、えっ!?あれ!!?と声が出るくらい驚きました。タジオになんちゅー扱いをするんだとも思いましたが、あのシーン、スウェーデンの名匠ロイ・アンダーソンの『愛おしき隣人』の衝撃シーンを彷彿とさせます(グロさではアリ・アスターの圧勝ですが、恐怖感ではロイ・アンダーソンに軍配をあげたい)。この儀式もスウェーデンで実際に行われていたもので、怖いの好きな人はぜひロイ・アンダーソン版も見てみてください。ちなみにアスター監督は好きな映画監督にロイ・アンダーソンの名前もあげています。思えばアリ・アスターのやたら作り込んだ画作りは通じるところがある。

そして物語の鍵を握る謎の従兄弟たちの名前がペレとイングマール。ウケる。イングマール・ベルイマンはまず確信犯として、ペレはビレ・アウグストの作品からきているのだろうか……そんなわけないか。よくある名前なんですけどね。イングマールとペレという北欧2大巨匠(片方は作品名ですけど)へのまさかのオマージュだとしたら、面白いんですけど。ちなみにアリ・アスターはイングマール・ベルイマンを尊敬しているとも公言しています。なんでも本作の撮影に入る前にはスタッフにベルイマンの『叫びとささやき』を見せたとか。ベルイマン作品、改めてきちんと見てみたくなりました。

前作『へレディタリー』も本作も、創作の源には監督自身の家族との間に起こった悲劇へのトラウマがあるそう。また本作の撮影時に恋人と別れたこともあり、主人公のダニは監督自身を投影したキャラクターと言われています。しかし失恋キャラといえばもう一人いる。イングマールさんです。名前といい、もしかしてアリ・アスターの分身はあっちではないのか……と私には思えて仕方がない。基本ドライなホルガ村の人と比べて彼だけが妙にウェットな役柄だし、ペレが徹頭徹尾、戦略的であるのに対してイングマールのダメっぷり。なんか色々と空気読めてなかったし。私はイングマールが最後なぜあの選択をしたのか、見終えた当初はわからなかったのですが、もしかして最初っから玉砕覚悟だったのだろうかと思ったらなんだか背筋がゾクッとしました。あの役にイングマールって名付けちゃう辺り、アリ・アスターから巨匠イングマールへの歪んだ愛情があるのかしらね?なんて思ってしまいました。

本作のキャッチコピーに「明るいことが、おそろしい」とありますが、これは本当にそうなんですよね。北欧の夏は、明るいのが恐ろしい。夏場に旅する時は遮光カーテン完備のちゃんとしたホテルを選ぶべきだし、クルーズの旅でも決して海側の部屋は取ってはいけない。だってあの人たち窓にカーテンかけないんだ、信じられない、ほんと眠れないから……と私は身をもって学びました。日が沈まない、しかも光を遮ることができないって、スケバン刑事の監獄級に恐ろしい(梁山泊編)。

日が沈まない白夜に心身ともに削られていく、そんな『ミッドサマー』(の1/1000くらいの)体験を、そういえばスウェーデンでしたことがあるなと、ふと思い出しました。その昔、『ミッドサマー』のホルガ村みたいなスウェーデンの僻地(失礼)で行われているダンスイベントに参加したことがあるんです。毎年1ヶ月に渡って催され、連日レッスンやパーティに明け暮れる、やや狂ったダンスイベントです。世界中からダンサーが参加するのですが、毎年アメリカからもたくさんのダンサー達が意気揚々と参加してきます。『ミッドサマー』のマークみたいに、「スウェーデンの可愛い子と!」「思いっきり羽目外そうぜ!」と期待に胸を膨らませ乗り込んでくる輩も少なくないと聞く。そしてその多くがボロボロになってしまうのです。「バカをやらせたら俺たちの右に出るものはいないぜ!」と信じているに違いないアメリカの若者達が、白夜と夏のスウェーデン人の狂乱ぶりの前に「まいりました〜」と白旗をあげてバタバタと敗れ去っていくんです。あれは怖かったなあ……。

『ミッドサマー』で描かれているように、まず日が沈まないことに体調をやられます。そして暗く長い長い冬を耐え忍んできた北欧の人々の夏の弾けっぷりに驚愕し、恐れを抱きます。あの弾けっぷりは、一年中ちゃんと日が昇ったり沈んだりする国の人間には到底理解できないし、恐怖を感じるのも無理ないんです。そんな狂気がナチュラルに混じった夏の北欧の風景を稀代のホラー作家が舞台に選んだっていうのは、見事すぎるマッチングだなとつくづく思います。スウェーデンのプロデューサー、偉い。あとアリ・アスターってペイガニズムや異教信仰に魅入られている人ですよね。モダンで先進的に見えてじつはキリスト教以前の土着信仰も根強く残るスウェーデンや北欧と相性がいい、というのも納得です。そしてダニ(というかマーク)たち御一行様のアメリカ的「俺がルールだ!」といったふるまいが、北の小国スウェーデンに否定され、しかも飲み込まれてしまう。その図式が風刺的でいいなと。冒頭に書いた文化盗用と指摘されかねない描き方といい、スウェーデンだから成立したバランスかもしれないなあと思います。

試写でご一緒したスウェーデン関係の方は「これ、なんて言って紹介したらいいんでしょうねえ……」と微妙な顔をされていたけれど、ミッドサマーという言葉は確実に知名度をあげましたよね。ミッドサマーって聞いただけで暗い顔になる人も増えたかもしれませんが。ちなみに本作、スウェーデンでも高評価だったそうです。うん、スウェーデン人なら、こういういじられ方、喜びそう。ちなみにこのBBCの記事に、スウェーデン公開時の現地での新聞やラジオなどによる反応がまとめられていますが、軒並み絶賛のようです。「私たちの文化が、こんな風に歪んで世界に伝えられてしまって、果たして良いのだろうか?……いいに決まってるじゃ〜ん!」みたいな。
Midsommar: What do film critics in Sweden think?

さて最後にミッドサマーにちなんだ北欧雑学です。劇中たくさんの花が出てきますがスウェーデンには夏至祭の夜、女性が森で7種類の花を摘んできてそれを枕の下に置いて眠ると将来の伴侶が夢に現れるという言い伝えがあります。劇中ダニがどんどん花に埋もれて紅白の小林幸子化していくのを見ながら、その言い伝えを思い出し、ダニに幸あれと願わずにはいられなかった。あと熊ね。熊は北欧では象徴的な存在です。フィンランドでは国獣ですし、会社のロゴマークに使われていたり、銅像になっていたり、スウェーデンやノルウェーでは熊を意味するビョルンという名前は一般的です(本作にもソービョルンが出てきますし、前述『ベニスに死す』の美少年役aka崖っぷちのおじいちゃん(の本名)もビョルンです。くまお・アンドレセン)。熊がいい仕事してますからね〜本作でも!

2/21より全国公開。『ミッドサマー』公式サイト

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