2021年の北欧映画ベスト5

昨年に続いてコロナによる緊急事態宣言が続き、その影響にさらされた映画業界。それでも今年も北欧から熱い作品が届きました。さて今年も北欧映画ベスト5いってみまーす!

1.『サウンド・オブ・レボリューション~グリーンランドの夜明け』 グリーンランド

舞台は北極海と北大西洋の間に位置するデンマーク領の島、グリーンランド。1970年代、デンマークの統治下にあったこの島から生まれた伝説のバンド、スミ(SUMI)の軌跡を、当時の映像と現在のインタビューを交えて追うドキュメンタリーです。政治への参加も叶わず、文明化の名のもとで自国の言葉や文化も失われそうになっていたグリーンランド。自殺やアルコール中毒など社会問題は深刻で、人々は無力さを感じるばかり。スミが母国語でロックを歌い初めた当初も、デンマーク人からどう見られるかを恐れて、人々は困惑したといいます。でも自尊心を押さえつけていた人々が、次第にスミの音楽と歌詞によって勇気づけられ自分を奮い立たせていくのです。

「音楽は社会を変えられるのか」「母国の言葉でロックができるのか」ロック、いや音楽の永遠の問いかけに対するひとつの答えのような作品が、まさかグリーンランドから出てくるとは!グリーンランドというと「名前とは裏腹に、雪と氷に閉ざされた国」というジョークもあるけれど、いや本当にそうなんだなあと。人気を博したスミは母国凱旋ツアーを敢行するのですが、土地のほとんどが雪と氷で覆われているため陸路で移動ができない。だから軍艦などに乗せてもらって航路でまわっていく。画面に映る自然環境の厳しさには言葉を失うし、そんな事情も乗り越えてしまうほどにスミの音楽が必要とされたことにも胸を打たれる。ちなみに母国語でロックといえば忌野清志郎を思い出しちゃうわけですが、強烈な歌詞と心地よいリズム、そしてフロントマンのマリクの風貌やカリスマ性といい、政治へのスタンスといい、本当に清志郎を彷彿とさせる。

もともとはトーキョーノーザンライツフェスティバルで上映された本作。今年はピーター・バラカン氏主催の『Peter Barakan’s Music Film Festival』で上映され、上映後にはスミに惚れ込んで本作の配給をされたTHE MUSIC PLANTの野崎洋子さんとバラカンさんとの対談もあり、政治を取り戻したい一方で福祉や教育などは完全にデンマーク任せというグリーンランドの実情についての解説を聞けたのもよかった(野崎さんの作ったグリーンランド紹介フライヤーも最高でした!)。実際、スミのメンバーも高等教育を受けるにはデンマークへ行くしかなく、コペンハーゲンで出会ってバンドを結成しているんですよね。そしてスミの解散後にグリーンランドは自治権を獲得するという……。いや〜久しぶりに全身にビリビリきた映画体験でした。

本作はamazon プライムほかでも配信中、またDVDも販売中。詳細はTHE MUSIC PLANTさんのページよりどうぞ。全力でおすすめです!

2.『パーフェクト・ノーマル・ファミリー』デンマーク

ある日突然、パパとママが離婚すると言い出した。その理由はパパが女性になるから……そんな驚きの物語は監督マルー・ライマンの実体験にもとづいたもの。娘から見るトランスジェンダーというユニークな視点を軸に、変化していく家族はお互いをどう受け止めていくのか……。お父さんが女性になってしまったことをなかなか受け入れられず、変化についていけない、そんな多くの人が共感するであろう娘のエマ役を演じるカヤ・トフト・ローホルトの演技が北島マヤ級です。そして女性へと性別移行する父親トーマスのキャラクターがまたとてもいい。娘への思いは変わらずとも自分を偽れない、思うように生きたい気持ちが抑えきれない面を上手に出しています。

本国でも好評で、娘をもつ父親からの共感も多く寄せられたという本作。他人事のように思ってしまいがちな問題を身近に感じさせ、難しいテーマながら明るく力強い物語にしているのは監督の実体験と力量があってこそ。

ちょうど先週より公開がスタートしています。年末年始にぜひおすすめ!

レビュー&監督インタビューも書いていますので合わせてどうぞ。
12/24公開。ほかの誰かにとっての「普通」を考え続けること『パーフェクト・ノーマル・ファミリー』

「自分の問題として共感する男性が多かったことに驚きました」『パーフェクト・ノーマル・ファミリー』マルー・ライマン監督インタビュー

3.『トーベ/TOVE』フィンランド

ムーミンの生みの親として知られるフィンランドの国民的作家トーベ・ヤンソン。本作ではまだ有名になる前の若き日々が描かれ、ストーリーの軸となるのは、運命の女性ヴィヴィカ・ヴァンドラーとの恋。トーベ・ヤンソンというとどこか気難しい、生粋の芸術家肌の人物像を思い浮かべていたのですが、芸術家ではなくイラストレーターとしての評価にコンプレックスを抱き、空回りする恋でヤケになっているトーベの姿には親しみすら感じてしまいます。一方でナチス政権下でもヒトラーの風刺画を描きつづけ、同性愛が禁じられていた時代に自分の歩みたい道を見つけて突き進むトーベの姿には脱帽、喝采。自分の心と向き合い、自分を信じるってすごいことだ!と改めて思う一本です。

レビューでは本作の鍵となる音楽について書いてます。
10/1(金)〜公開。トーベのDJで朝まで踊りたい『TOVE/トーベ』

4.『主婦の学校』 アイスランド

アイスランドに現存する「主婦の学校」を追うドキュメンタリー。アイスランドといえば男女平等の国。毎年発表されるジェンダーギャップ指数ランキングでは、なんと連続11年にわたって1位に輝く圧勝ぶりで、そのアイスランドで主婦の学校!?とは意外な気もしますが、そもそも主婦とは何をする人なのか?を考えさせられる良作。1942年に創設され、一時は入学希望者が列をなすほどだったのが時代の波に押され閉校の危機にも直面しつつも、主婦の技術を伝え続ける本校の存在意義とは?調理、洗濯、掃除、裁縫……誰しも生きていくのに必要な技術なのに、思えばなぜこれが「主婦」の仕事なんだろう?

苔むす岩地でベリーを摘み、寮の部屋にもキャンドルを持ち込み、休憩時間には編み物にいそしむアイスランドっ子の暮らしがのぞけるのも楽しく、「こうすると高級に見えるでしょ〜」とベビー服にアウトドアブランドのロゴをあしらうなど、アイスランド好きならピンとくるご当地ネタも随所に。ちなみに劇中登場する男性の卒業生の一人は、人気パフォーマーのラグナル・キャルタンソン。

校長によると、不況の時は入学希望者が増えるとか。家事とは「やらねばならないこと」なのではなく、暮らしを安定させ豊かにするために必要なこと。そして本作を見て痛感するのです。家事はできた方が人生は絶対に楽しい!みんなが主婦を学ぶべき!と。

5.『アナザーラウンド』 デンマーク

いまをときめく北欧の至宝マッツ・ミケルセン主演、『偽りなき者』のトマス・ウィンターベア監督との再タッグでアカデミー賞外国語映画賞にも選ばれた本作。血中アルコール濃度を0.05%に保つと人生うまく行く!?との珍説(by ノルウェーの哲学者)を実践すべく、中高年危機に直面する男4人が冴えない人生から一発逆転を目論むという、どう考えても先行きが明るいとはいえないコメディ調のストーリーががなんとも北欧的。世界最高峰のセクシー俳優マッツが、いけてない教師という設定をどう演じるのかも見どころで、生徒に馬鹿にされるマッツ、妻や子どもに冷めた目で見られるマッツ、仲間といる時は楽しそうなマッツ、アルコールで調子にのってるマッツ、暴走するマッツと各種いけてないマッツが見られます(いや、いけてるけど)。さらにはあまり本筋に関係ない気もするが踊るマッツまで見られるのは監督のサービス精神ゆえか。それにしてもやっぱりデンマーク作品に出演するマッツは居心地がよさそうで、はっちゃけ感3割増しに見えますね。デンマークの飲酒事情とそこに紐づく人々の案外保守的な面もつまびらかになる快作であり、トマス・ヴィンターベア監督の相変わらずのミソジニー感が若干鼻につきつつも、そのギリギリなラインをマッツの好演がつなぎとめるという図式が、本作の主人公たちともシンクロします。いやこれ、狙ってるんですかねえ?

ちなみに来年1月公開、おなじくマッツ主演のデンマーク作品『ライダース・オブ・ジャスティス』でも『アナザーラウンド』いじりネタが登場しますよ〜。

次点 BORGEN『コペンハーゲン 首相の決断』

デンマーク発の大ヒットテレビシリーズ。与党の不祥事と連立政権の妙から生まれたデンマーク初の女性首相を主人公に、政治の裏側をリアルに描く社会派ドラマ。環境問題、ジェンダー問題、人種問題などタイムリーなテーマが多く、本国では2010年にシーズン1がスタート、日本では現在3シーズンまでNetflixにて配信中で、いよいよ来年2月から新シリーズがスタート!見直すなら今ですよ〜!!ちなみに原題のBORGENとはコペンハーゲンのクリスチャンスボー城のことを指し、国会や首相官邸、裁判所など国の中枢が置かれていることから。本作の好演で『ゲーム・オブ・スローンズ』にも抜擢されたピルー・アスベック(新シリーズには不参加?)やマッツのお兄ちゃんことラース・ミケルセンなどデンマークの要注目俳優も登場。

【来年1〜2月公開の注目作品】
ライダース・オブ・ジャスティス
マッツ・ミケルセン主演、『アダムズアップル』ほか3部作でマッツと組んでいるアナス・トマス・イェンセン監督による最新作。これ、来年のベスト5入り確実の一本です。毒気の多い北欧映画監督のなかでも群を抜いて切れ味の鋭いイェンセン監督がリミッターなしで切り込んだ問題作。マッツは空気読めない最凶軍人を演じています。

ロスバンド
ノルウェー発の青春☓バンド☓ロードムービー。地元の町でバンド練習に励む少年二人が、トロムソで開催されるロックの大会を目指して奮闘。「会場をトロムソにすれば、ロードムービーとしてノルウェーの絶景も同時に見せられる」との監督の言葉どおり、フィヨルドの海岸線やヨーロッパ屈指の山並みも堪能できる爽やかな一本で、旅をしてる気になれます!

北欧バンド映画といえば、昨年公開で話題をさらったフィンランドの『ヘヴィ・トリップ/俺たち崖っぷち北欧メタル!』もamazonプライムで配信中。こっちもメタルの大会を目指すロードムービーではあるのですが北欧あるあるネタ満載で抱腹絶倒、直腸陥没、間違いなしの一本です!