7/28公開、ラース・フォン・トリアー新作『キングダム エクソダス〈脱出〉』パンフレットに寄稿しています

『ダンサー・イン・ザ・ダーク』『アンチクライスト』などの話題作で世間を驚愕させてきたデンマーク出身の監督ラース・フォン・トリアー。7月28日から公開される新作『キングダム エクソダス〈脱出〉』の劇場用パンフレットに寄稿しました。

本作は90年代にデンマーク国営放送で放映されたテレビドラマシリーズ『キングダム』の続編で、前シリーズが終わってから25年もの時をこえて物語はついに完結へ。デンマーク本国では昨年のクリスマスに放映された新シリーズは全5話。日本ではそれが劇場で一挙公開となり、上映時間はなんと319分!

デンマークの巨大病院”キングダム”を舞台に、病院で起こる奇々怪々な現象を追うオカルトホラー。スウェーデンから赴任してきた医師を筆頭に、キングダムの怪しげな医師たち、謎を解き明かそうと入院してくる霊感も使命感も強すぎる女性と、クセのあるキャラクターが次々に登場します。主人公のスウェーデン医師の口癖が、「デンマーク人はクズだ!」。本作では、スウェーデンとデンマークという北欧2カ国の「我が国こそいちばん」という対抗心がコメディ的にたっぷりと描かれているのです。

新作では主演のスウェーデン人医師に人気俳優ミカエル・パーシュブラントを迎え、霊感夫人の跡を継いで謎を解く夢遊病者カレンにボディル・ヨルゲンセン、キングダムの医師やスタッフにはラース・ミケルセン、ニコライ・リー・カース、ツヴァ・ノボトニー、ニコラス・ブロ、さらに弁護士役にはアレクサンダー・スカルスガルドと北欧を代表する俳優が勢ぞろい! 北欧の映画&ドラマ好きとしては大興奮の豪華過ぎる布陣で、スウェーデンvsデンマークの対立がより深く、より愉快に描かれています。

私は前シリーズの公開時、トリアーのことも北欧のことも何も知らなかった頃にレンタルビデオ(DVDじゃなかった時代……)で偶然手にして、引き込まれてしまったのですが、今回改めて全シリーズを見直して随所に散りばめられたスウェーデン&デンマークあるあるに大笑いしました。オカルトホラー仕立てなんですけど、やっぱり本作のベースにあるのはコメディというか北欧自虐コントなんだなあと。

前作から25年の時を経て公開となった新シリーズ。私もその間に北欧についての知識を深め、奇しくも『キングダム』をより楽しめる体になっておりました。パンフレットでは、本作をより深く楽しめるようスウェーデンとデンマークの歴史や関係性をベースにコラムを書いています。

『キングダム エクソダス〈脱出〉』の公開に先駆けて、各劇場ではトリアー監督歴代の作品を一挙公開する『レトロスペクティブ』特集も組まれ、パンフレットはレトロスペクティブから楽しめる『ラース・フォン・トリアー完全読本』との合併版となっています。裏返すと『キングダム』のタイトルが。完全読本はさすがトリアーといいますか、大森さわこさんはじめ映画評論の著名な方が執筆されています。

新作に合わせてデジタル修復版の前シリーズも一挙公開、通しで見ると15時間!気が遠くなる上映時間ではありますが、トリアー監督の出発点であり、母国デンマークと隣国スウェーデンへの愛憎入り交じる描写は他作品では観られないので、ぜひ〜!